研究概要 |
ドパミン D2 受容体には選択的スプライシングにより D2LR と D2SR のアイソフォームが存在し、D2LR のシグナル伝達機構にはチロシンキナーゼ受容体の活性化が関与することが示唆されている。私達は D2SR は主に細胞膜に局在し、D2LR は細胞膜だけでなくゴルジ体にも局在することを報告した。しかしながら、ゴルジ体に存在するD2LR の活性化機構とその役割に関しては未だ明らかとされていない。そこで本研究では、細胞内 D2LR と PDGF 受容体の細胞内シグナル伝達機構における関連性について検討した。HEK293T 細胞にD2LR と PDGF 受容体beta を共発現した細胞では、ドパミン刺激による ERK と PDGF 受容体beta の持続的な活性化が見られた。さらに、リボソームタンパク質S6の持続的なリン酸化によりドパミン D2 受容体の蛋白質合成が促進された。それらの活性化は pertussis-toxin, PDGFR 阻害剤、dynamin inhibitor により有意に抑制された。また、 PDGF 受容体beta 遺伝子欠損マウスの線条体において、ドパミン D2 受容体の蛋白質発現量は有意に減少した。これらの結果より、細胞内ドパミンD2L受容体は PDGF 受容体betaを介して持続的な ERK の活性化を引き起こし、ドパミン D2 受容体の蛋白質合成を促進することが示唆された。これまでの研究において、PDGF 受容体beta 遺伝子の一塩基多型とハプロタイプが統合失調症との関連を示すことが報告されている。また、中枢神経特異的 PDGF 受容体beta 遺伝子欠損マウスでは、プレパルス抑制の低下等、統合失調症様行動が見られる。細胞内ドパミンD2L受容体/PDGFRの持続的 ERK 活性化と病態との関連性について今後解析を続ける予定である。
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