本研究は、質量分析計を用いてホスホイノシタイド解析の新しい分析技術を開発し、基質が同じにもかかわらず異なる表現型を示す代謝酵素欠損マウスのホスホイノシタイド分子種を解析することで、アシル基の多様性による特有の生理機能を解明することを目的としている。具体的には、生体微量成分であるホスホイノシタイドの高感度定量分析法を開発し、種々の代謝酵素欠損マウスにおけるホスホイノシタイド分子種の定量解析を行った。当初の研究計画にのっとり、実験を進め、以下の成果が上がった。 ・高感度ホスホイノシタイド分析法の確立: 選択反応モニタリング法を用いて高いシグナル/ノイズ比での高感度法を確立した。各ホスホイノシタイドの定量下限はPIP1・PIP2で数百amol、PIP3で1 fmolであった。適用例として、確立した分析系を用いて様々な培養細胞やマウス臓器におけるPIPsを解析したところ、その量と質(分子種)に差異が存在することを見出した。 ・種々の代謝酵素欠損マウスを用いたホスホイノシタイド分子種の変動解析: PIP3脱リン酸化酵素であるPTENとSHIP1の基質特異性(脂肪酸側鎖の認識)が異なることを見出した。さらに、種々の代謝酵素欠損マウスや特定の刺激化で変動するホスホイノシタイド分子種に差異を見出した。
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