研究課題/領域番号 |
23790080
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
福地 守 富山大学, 大学院医学薬学研究部(薬学), 助教 (40432108)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | BDNF / スプライシング / 神経活動 / BDNF前駆体 |
研究概要 |
本研究では、BDNF exon I-IX mRNAにコードされる新規BDNF 前駆体の神経系における発現制御機構および生理機能の解明を目的としている。本年度は以下のことを明らかにした。[A] BDNF exon I-IX mRNA 合成(スプライシング)機構の解明BDNF 遺伝子のexon I-IX のスプライシング解析用ベクターを用いて、欠損変異体を構築した結果、exon Iの転写開始点より下流+760から+987の領域の欠損により、カルシウムシグナル依存的なスプライシング効率の上昇が認められなくなる傾向が得られた。また、この領域の欠損により、BDNF exon II-IX間の恒常的なスプライシングが認められなくなった。さらに、カルシウムカルモジュリンキナーゼ阻害剤によっても活動依存的なexon I-IX間スプライシング効率の上昇は認められなくなった。最近、活動依存的なスプライシングに関わる因子としてSAM68が報告された。そこで、活動依存的なBDNF exon I-IX間スプライシングにおけるSAM68の関与を明らかにするため、ノックダウンベクターを構築した。[B] Exon I-BDNF 前駆体の機能解析Exon I-BDNF-GFPおよびExon IX-BDNF-GFPを大脳皮質ニューロンに導入したところ、GFPのみを発現させた場合では、細胞体および神経突起全体に分布するのに対し、Exon I-BDNF-GFPおよびExon IX-BDNF-GFPは、細胞体、細胞体の近傍の突起、および1本の長い突起に分布が認められた。一方で、Exon Iの開始コドンの下流にルシフェラーゼ遺伝子を挿入したトランスジェニックマウスを作製し、BDNF exon I-IX発現をin vivoにおいて発光測定によりモニターする実験系の構築を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
BDNF exon I-IX間スプライシングの解析では、用いた実験系が予想通りに使用可能であったため、欠損変異体を用いて、神経活動依存的なexon I-IX間スプライシングに関わる大まかな領域を決定することが出来た。さらにこの領域は、exon II-IX間の恒常的なスプライシングに関わっており、これは予期せぬ結果であった。また、この活動依存的なスプライシングにCaMK経路が関わることを明らかにした。一方、SAM68が活動依存的なスプライシングに関わることが報告されたのを受けて、SAM68がBDNF exon I-IX間スプライシングに与える影響を検討するため、内在性SAM68をノックダウンするベクターを構築した。以上より、スプライシングの解析は、当初の計画以上に進展していると言える。BDNF exon I-IX mRNAにコードされる新規BDNFの機能解析においては、exon Iの開始コドンが細胞内で機能的に働いていることを明らかにした。さらに、exon I-BDNFおよびexon IX-BDNFをGFPに連結して大脳皮質神経細胞に導入したところ、1本の突起に非常に長く分布する特徴的な結果が得られた。しかし、exon I-BDNF-GFPおよびexon IX-BDNF-GFPの発現分布の違いは認められなかった。exon I-BDNF-GFPおよびexon IX-BDNF-GFPを発現させた場合、神経細胞の核の形態に異常が認められる場合が多く、細胞死を起こしているケースも認められた。これは、これらタンパク質が細胞内で過剰に生成された結果生じた可能性も考えられ、発現に用いるプロモーターや遺伝子導入時間に検討が必要である。以上より、新規BDNF前駆体の機能解析は、おおむね順調ではあるが、一部計画よりも遅れている。以上より、本研究は全体を通しておおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
BDNF exon I-IX間スプライシングの解析では、スプライシング因子SAM68のノックダウンが、神経活動依存的なexon I-IX間スプライシングに及ぼす影響を検討する。また、本実験で用いているスプライシング解析用ベクターは、exon II-IX間およびexon III-IX間のスプライシングも検討可能である。スプライシングの解析は、計画以上に進んでいるため、これらスプライシングについても同様に解析を進める。BDNF exon I-IX mRNAにコードされる新規BDNFの機能解析では、exon I-BDNF-GFPおよびexon IX-BDNF-GFPを発現させると、神経細胞に異常が認められる傾向が得られたため、遺伝子導入後の解析時間を検討する。この検討後に、計画に沿って新規BDNFの機能解析を行う。平成23年度では、BDNF前駆体のうち、prepro領域のみにGFPを連結、BDNF前駆体にGFPを連結、さらにプロセシングを受けないBDNF前駆体にGFPを連結した発現ベクターを作成した。これらを神経細胞に導入し、GFPによる細胞内局在解析を行う。これにより、BDNF前駆体、prepro領域、および成熟BDNFの細胞内局在を解析することが可能である。この解析を通して、exon I-BDNFおよびexon IX-BDNFの局在性の相違を明らかにする。また、BDNFは神経活動依存的に分泌されるため、神経活動を与えた後の局在性の変化も合わせて解析する。さらに、BDNF exon Iの開始コドンに発光タンパク質ルシフェラーゼ遺伝子を導入したトランスジェニックマウスを構築中である。現在、キメラマウスが得られた段階であり、このマウスが構築でき次第、ルシフェラーゼ発光を利用したBDNF exon I発現のモニタリングをin vitro、in vivoにおいて行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度は、本研究成果の発表を行わなかったために旅費が発生しなかった、および内在性exon I-BDNF前駆体を認識する抗体を作成しなかったため消耗品購入金額が予定よりもわずかに少なくなった、以上の理由から次年度への繰越金が発生した。平成24年度は、BDNF exon I-IX間スプライシングの解析およびBDNF exon I-IX mRNAにコードされる新規BDNFの機能解析の遂行のための消耗品に研究費を主に使用する。具体的には、神経細胞初代培養の調製のための実験動物(妊娠ラット)、神経細胞培養のための消耗品(培地、培養シャーレや培養プレート等)、RNA解析のための試薬類(RNA抽出試薬や逆転写酵素、定量的PCRキット等)、タンパク質発現解析のための試薬類(タンパク質抽出試薬等)、細胞内局在解析のための消耗品(免疫染色用スライドガラスや染色試薬等)および抗体類があげられる。BDNF exon Iの開始コドンに発光タンパク質ルシフェラーゼ遺伝子を導入したトランスジェニックマウスが構築できた場合、トランスジェニックマウスの飼育および維持にかかる消耗品購入にも使用する。また、本研究成果の発表のための旅費にも使用する予定である。
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