本研究では、新規BDNF前駆体「Exon I-BDNF前駆体」をコードするBDNF exon I-IX mRNAに着目し、BDNF exon I-IX mRNA合成機構およびExon I-BDNF前駆体の機能解析の大きく2つの研究を行った。 BDNF exon I-IX mRNA合成機構を解析するにあたり、exon I-IX間のスプライシングに着目し解析した結果、exon I-IX間スプライシングは、神経細胞においては非常に効率よく認められたのに対し、NIH3T3細胞やHeLa細胞では、ほとんど認められなかった。一方、神経細胞におけるexon I-IX間スプライシングは、細胞膜脱分極により惹起されるカルシウムシグナル依存的にその効率が上昇することが明らかとなった。特に、CaMK経路がこのスプライシング効率に重要であった。 また、Exon I-BDNF前駆体の機能解析を進めるにあたり、実際にexon Iの翻訳開始点からExon I-BDNF前駆体が翻訳されるかについて、点変異導入による解析を行った。その結果、exon Iの3’末端に存在する翻訳開始点から、prepro-BDNFが翻訳されることが明らかとなった。そこで、GFP融合タンパク質発現ベクターを用いた解析を進めた結果、Exon I-BDNF前駆体-GFPおよびExon IX-BDNF前駆体-GFP共に、神経細胞内において、細胞体および神経突起にGFPシグナルが確認された。特に、軸索と思われる突起には、GFPシグナルが突起の末端にまで広く分布しており、これらタンパク質は軸索内を輸送されていることが示唆された。 本研究により、新たなBDNF前駆体タンパク質が、神経活動依存的に合成されるexon I-IX mRNAにコードされていることが示唆された。今後、通常のBDNF前駆体タンパク質との相違をさらに解明する必要性がある。
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