研究課題
現在、わが国は第三次覚醒剤乱用期にあり、薬物乱用および依存問題は大きな社会的問題となっている。依存性薬物の乱用により脳報酬回路の異常興奮が長期間持続すると、報酬回路に病的な可塑的変化が生じ、渇望を伴う依存状態になると考えられている。依存性薬物の乱用が薬物依存につながる分子機構は未だよくわかっていないが、薬物依存は持続性で長期断薬後もストレスなどにより容易に再発することから新たな遺伝子・タンパク質発現を伴うシナプスの機能的および構造的変化が関与していると考えられている。我々は種々のストレスによって発現変化を示す遺伝子としてNpas4を同定した。本研究では、覚せい剤(メタンフェタミン)依存症におけるNpas4の病態生理学的な役割を明らかにし、新規創薬標的分子となるかについて検討した。ICR系雄性マウスにメタンフェタミン(2 mg/kg)を1日1回、10日間連続投与した。脳各部位におけるNpas4 mRNAおよびタンパクは、それぞれreal time-RT PCR法およびウエスタンブロッティング法により定量した。ドパミンD1受容体アンタゴニストSCH23390およびD2受容体アンタゴニストracloprideはメタンフェタミン投与30分前に腹腔内投与した。メタンフェタミン連続投与により海馬におけるNpas4 mRNAおよびタンパク発現が有意に増加した。一方、メタンフェタミン単回投与では有意な変化は認められなかった。メタンフェタミン連続投与によるNpas4発現の増加は海馬に特異的であり、大脳皮質あるいは線条体では変化は認められなかった。さらに、メタンフェタミンによるNpas4発現の増加はSCH23390あるいはracloprideの併用投与により抑制された。以上の結果より、メタンフェタミン連続投与に伴う海馬機能の変化にNpas4の発現増加が関与していることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本研究の最終目標は、覚せい剤(メタンフェタミン)依存症におけるNpas4の病態生理学的な役割を明らかにし、新規創薬標的分子を探索することである。目標1. メタンフェタミン投与後のNpas4の発現変化について調べ、その機序を明らかにする。目標2. 薬物依存状態ではNpas4がどのような分子の発現調節に関与しているかを調べ、Npas4の標的遺伝子を同定する。目標3. ドパミン作動性神経機能とNpas4の関連性について調べ、薬物報酬効果におけるNpas4の役割を明らかにする。本年度は目標1.ついて検討し、メタンフェタミン連続投与に伴う海馬機能の変化にNpas4の発現増加が関与していることを示唆した。したがって、本研究における達成度は概ね順調に進んでいるものと考えられる。
来年度はNpas4標的遺伝子の同定およびNpas4の機能解析を検討する予定である。Npas4標的遺伝子の同定は、Npas4タンパク質に対する抗体で免疫沈降してDNAを増幅・検出することにより転写調節因子Npas4の標的となる遺伝子を調べる。また、同定された標的遺伝子のmRNAおよびタンパク質の発現量について検討する。一方、Npas4の機能解析については、培養神経細胞およびNpas4ノックアウトマウスを用いて検討する。予備検討において株化神経細胞Neuro2Aの分化に伴いNpas4の発現が増加することを確認している。今後、Npas4により発現誘導を受ける標的遺伝子を同定することにより、覚せい剤依存や覚せい剤精神病の分子機構の解明が進むと期待される。
来年度の研究費は実験動物および試薬類を中心に使用する計画である。特に、抗体、遺伝子精製キット類、培養神経細胞調製試薬等である。また、得られた研究成果を国内(日本薬学会、日本薬理学会など)、国際学会(北米神経科学会)および学術論文として報告する予定である。以上の研究経費の妥当性を考慮し、本研究課題の遂行に必要な研究費を算出している。
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