研究課題
薬物依存患者の意思決定パターンは正常者と異なることが示唆されているが、薬物依存者の意思決定の障害が薬物乱用の原因であるか、あるいは薬物依存の結果として意思決定に障害が生じたのかは不明である。平成23年度は、小動物を対象とした意思決定評価法の確立と意思決定に対する覚せい剤(メタンフェタミン)の効果について検討した。実験には、摂食制限した8週齢の雄性 Wistar ラットを使用し、8方向放射状迷路を用いてギャンブルテストを行った。8つのアームのうち1つをGoodアーム(lowリスク・lowリターン)、1つをBadアーム (highリスク・highリターン)、 2つをemptyアーム(餌なし)、2つをスタートアームとして使用し、残り2つは使用しなかった。アーム位置は常に固定し、スタートアームのいずれかにラットを置き、GoodもしくはBadアーム先端のペレットを摂取するまでを1試行とし、1日 16 試行を連続して行った。Goodアームには、常時ペレット(低報酬)を置いたが、16試行中2-8回の一定の割合でランダムにキニン入りペレット(罰:食べると舌が痺れる)を置いた。Badアームには、常時キニン入りペレットを置いたが、16試行中2-8回の一定の割合でランダムにペレット(大報酬)を置いた。この時、16試行通してGoodとBad両アーム間の総報酬量に差はないようにした。16試行中のBadアームの選択回数(選択率)とemptyアームへの侵入回数を測定した。その結果、本ギャンブルテストでは、ラットは報酬の獲得確率に依存してアームを選択する事が示唆された。また、覚せい剤依存ラットはhighリスク・highリターンを好むことが分かった。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、(1)意思決定に対する依存性薬物の効果を評価することのできるラットを用いた行動試験法(小動物用ギャンブルテスト)を考案する。 (2)覚せい剤、麻薬、ニコチンなどの依存性薬物の意思決定に対する影響を明らかにする。(3)リスク嗜好性が依存症の脆弱性に関与するかを明らかにする。 (4)マンガン造影MRI法を用いて意思決定に関わる神経回路を同定する。 (5)同神経回路の神経活性に対する依存性薬物の効果を調べる。平成23年度の研究期間中、(1)と(2)は終了しており、予定通りである。
平成24年度は、意思決定の神経回路を解明することが主な研究目的に挙げられる。予備検討により、マンガン造影MRI法を用いて意思決定時における責任脳部位の同定を試みたが、解像度の問題等、容易ではないことが分かった。そこで、研究計画書に記載したように、補足実験である最初期遺伝子c-Fosマッピング法により、意思決定に関与する神経回路を同定する方向で考えている。
主に意思決定の神経回路網の同定に必要な消耗品(実験動物費、一般試薬など)や旅費・その他(実験動物飼育料、論文投稿料)に使用する計画である。
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Biochem Res Int
巻: 2011 ページ: 681385
DOI:10.1155/2011/681385
Journal of Neuroscience
巻: 31 ページ: 12963-12971
10.1523/JNEUROSCI.3118-11.2011