研究課題
酸化ストレスはパーキンソン病の病態と密接に関わっており、酸化ストレス防御機構であるNrf2-ARE経路の活性化は有望な治療法として期待されている。本研究では、細胞死におけるNrf2-ARE経路の役割を明らかにするとともに、新規Nrf2-ARE経路活性化物質を探索することを目的としている。これまでの検討により、ドパミンニューロンのモデルとしてPC12細胞に傷害を与えるとNrf2-ARE経路が活性化し、その下流で増加するグルタチオン(GSH)は細胞保護的に、ヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)は細胞傷害的に働くことを明らかにした。HO-1はヘムを分解し抗酸化作用のあるビリルビンを増加させる一方、遊離鉄の増加やヘム自体の減少を引き起こす可能性がある。今年度は、ヘムの減少が細胞傷害にどのように寄与するか検討した。細胞内のヘムを減少させると、ヘム蛋白質の一つであるカタラーゼの活性が有意に低下し、細胞死を増強した。一方、細胞内ヘムの補充はカタラーゼ活性を上昇させ、細胞死を抑制した。従って、細胞内ヘムはカタラーゼ活性調節による細胞防御機構に寄与することが明らかとなった。本知見は、Nrf2-ARE経路活性化に引き続くHO-1発現誘導による細胞傷害性の機序の一端になるかもしれない。また、葉タバコのジエチルエーテル抽出物が強力なARE経路活性化作用を有することを見出した。本年度は、シリカゲルカラムクロマトグラフィおよび順相HPLCによりその成分の分離・精製を行った。NMR解析に十分な純度まで精製を繰り返し、1D,2D-NMRにより構造を推定する。
2: おおむね順調に進展している
細胞死におけるNrf2-ARE経路の役割の解明に関しては順調に達成できた。新規Nrf2-ARE経路活性化物質の探索に関しては、構造決定にまでは至らなかった。この理由として、葉タバコのジエチルエーテル抽出物の水溶性が低く、当初予定していた逆相HPLCに不向きであったことが挙げられる。そのため、条件検討に想定以上の時間を要した。しかし、代替案として、順相HPLCを用いて精製を行っており、現在は解決に向かっている。
葉タバコ抽出物からのARE活性化成分の探索には、シリカゲルカラムクロマトグラフィ(順相)、逆相HPLC(勾配および均一濃度溶離)を経て精製する。精製した成分は、液体クロマトグラフ質量分析計(LC/MS/MS)により純度、分子量および構造情報を得る。NMR解析に十分な純度まで精製を繰り返し、1D,2D-NMRにより構造を推定する。推定構造から化学合成を行い、合成品と抽出物から得られた成分の活性を比較し、構造決定まで行う。同定した葉タバコ由来Nrf2-ARE経路活性化物質が、細胞毒に対して保護作用を示すか検証する。In vitroにおいては詳細な保護作用機序を薬理学的に解析し、さらに、Nrf2-ARE経路活性化機序について分子レベルにおいて明らかにする。
研究を遂行するのに必要な培養標本の作成、生化学的検討は現有の実験設備で行うことが可能である。研究経費として消耗品類(薬品、培養関係消耗品、実験用動物、ガラス器具)の他、化学構造分析委託費および有機合成委託費を計上する。
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Yakugaku Zasshi
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