研究課題/領域番号 |
23790084
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
瀬木 恵里 京都大学, 薬学研究科(研究院), 准教授 (70378628)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 視床下部 / 抗うつ治療 / 高脂肪食 / 電気けいれん療法 |
研究概要 |
慢性的なストレス刺激はうつ病発症の要因の一つであり、長期ストレスによりストレス応答の破綻(フィードバック機構の障害や反応性の亢進)が生じていると考えられる。ストレス刺激には、拘束刺激・攻撃刺激など急性的なもののみならず、慢性炎症・代謝異常など慢性的な疾患も含まれる。本研究では、視床下部での慢性ストレス刺激による分子変化の同定と、それらストレス応答を制御する新規抗うつ標的分子群の探索を目的としている。慢性ストレスとして、高脂肪食誘導性の肥満による代謝性ストレスを用いた。当初、視床下部の神経核の内、急性ストレス中枢として知られる室傍核に着目していたが、代謝性ストレス刺激に対しては腹内側核の寄与も大きいことが判明したため、今回は腹内側核に着目して研究を行った。高脂肪食下で抗うつ刺激した脳切片から腹内側核のRNA抽出を行い、マイクロアレイ法による網羅的遺伝子発現の同定を行ったところ、腹内側核で発現が増大する遺伝子群に、神経栄養因子(BDNF),神経ペプチド PACAP, ヒスタミン H1受容体が存在した。これら因子は腹内側核において摂食抑制効果を持つことが示唆されている。そこで、摂食行動に対する効果を検討したところ、繰り返しの抗うつ刺激により、高脂肪食マウスで摂食と体重増加の抑制が観察された。従って、高脂肪食という生体ストレスに対して、抗うつ治療は視床下部で摂食の抑制シグナルを活性化するという反応を示すことが新たに明らかとなった。今後はこのシグナルがどのように代謝性ストレスに対して、抗うつ作用・抗ストレス作用を示すかを検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、視床下部での慢性ストレス刺激による分子変化の同定と、それらストレス応答を制御する新規抗うつ標的分子群の探索を目的としている。当初、ストレス反応を制御する視床下部神経核として室傍核を想定していたが、慢性ストレスにおいてはより多くの神経核の関与があることが想定された。そこで、まず繰り返しの抗うつ刺激を行った場合に強く活性化される部位を検討したところ、視床下部の腹内側核がもっとも強く活性化していた。そこで本研究ではストレス制御中枢として腹内側核の寄与を検討することとした。慢性ストレスとして、腹内側核の制御を受けると想定される代謝性のストレスを選び、高脂肪食による肥満において、抗うつ刺激がどのように腹内側核の発現を変化させるかを検討し、抗うつ作用や代謝制御の関与が考えられる神経栄養因子(BDNF),神経ペプチド PACAP, ヒスタミン H1受容体の発現変化を同定し、新たな新規抗うつ標的分子を見いだした。従って、研究目的については、当初の探索部位とは異なっているものの、実際に新規の分子群の同定に成功しており研究計画自体は順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の結果より(1)高脂肪食持続摂取下において抗うつ刺激(電気けいれん刺激)により、腹内側核では摂食抑制作用を持つことが知られている複数の因子(BDNF, PACAP, Histamine H1受容体)の発現が増大すること。(2)繰り返しの電気けいれん刺激により、実際にマウスの摂食が低下し、体重の増加抑制が認められること、が明らかとなった。このことは「代謝性ストレス下において、抗うつ刺激は腹内側核を活性化することにより、摂食を調節して代謝性のストレスを調節する」という新規の作用が予想される。しかしながら、上記を証明するためには、抗うつ刺激による腹内側核の活性化と摂食抑制作用の関係を検証する必要がある。また、抗うつ刺激がもたらす抗うつ様効果について、腹内側核がどのような役割を果たすかについても、現段階では不明である。従って平成24年度においてはこれらの点について、腹内側核の破壊による抗うつ刺激の効果やその時の抗うつ様行動の変化を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用に145,143円があるが、予定よりも予備検討がうまく進み、予定していたマウス購入費が少なかったためである。平成24年度の見込額1,440,000円の内、実験用動物購入に440,000円、研究用試薬に700,000円、プラスチック器具に200,000円、研究成果発表の旅費に100,000円使用予定である。
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