慢性的なストレス刺激はうつ病発症の要因の一つであり、長期ストレスによりストレス応答の破綻(フィードバック機構の障害や反応性の亢進)が生じていると考えられる。ストレス刺激には、攻撃刺激など急性的なもののみならず、慢性炎症・代謝異常など慢性的な疾患も含まれる。本研究では、視床下部でのストレス刺激による分子変化の同定と、それらストレス応答を制御する新規抗うつ標的分子群の探索を目的としている。 1)ストレス中枢として重要な視床下部・室傍核での抗うつシグナルを探索する目的で、抗うつ治療である電気けいれん刺激を行った後に、室傍核を単離し網羅的な遺伝子発現解析を行った。その結果、単回・複数回の電気けいれん刺激により、コレシストキニン遺伝子の発現増大が起こることを見いだした。コレシストキニンはストレスシグナルに対して抑制的に作用することが知られており、電気けいれん刺激の治療メカニズムの一つと考えられる。 2)慢性的な代謝ストレス刺激として高脂肪食を摂食したマウスに対して、上記の電気けいれん刺激を複数回行うと、摂食量が減少し体重の減少が認められることを見いだした。この分子メカニズムを探るために摂食制御中枢である腹内側核での網羅的遺伝子発現解析を行った。その結果、電気けいれん刺激により摂食抑制因子である脳由来神経栄養因子(BDNF)、神経ペプチド(PACAP)、ヒスタミンH1受容体、副腎皮質刺激ホルモン放出因子(CRH)2受容体等の発現が上昇していることを見いだした。また腹内側核を破壊すると上記で認められた電気けいれん刺激による摂食量・体重の減少は消失し、電気けいれん刺激の効果が腹内側核の活性化によるものであることを示した。
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