研究課題/領域番号 |
23790086
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
新谷 紀人 大阪大学, 薬学研究科(研究院), 准教授 (10335367)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | CRTH2 / PGD2 / 情動障害 / 認知機能障害 / 動物モデル / 一塩基多型 / sickness behavior / 精神疾患 |
研究概要 |
本研究では、これまで代表者が得た知見から導かれる仮説"CRTH2は情動障害の新規創薬標的になる"を基礎・臨床の実験系で検証すると共に、CRTH2の中枢機能を分子レベルで評価できる新手法の開発を目的として実施し、平成23年度は以下の結果を得た。1. 低用量リポポリ多糖(LPS, ip)の急性投与(sickness behaviorモデル)により社会性行動や新規物体探索行動が障害(意欲あるいは認知機能が障害)されること、同障害の発現がCRTH2欠損マウスやCRTH2拮抗薬の事前投与によって抑制されることを明らかとした。2. コルチコステロン連続投与(うつ病モデル)あるいは末梢ガン移植(カヘキシアモデル)で誘発される社会性行動の低下や強制水泳試験における無動時間の増加(種々の情動関連障害の発現)が、CRTH2欠損マウスおよびCRTH2拮抗薬の急性後投与によって抑制されることを明らかとした。3. LPS投与モデルにおけるc-Fosを指標とした脳内神経核の活性変化の解析から、CRTH2は液性経路を介した扁桃核の持続的活性化、および神経経路を介した視床下部室傍核の活性化に関与する可能性を示し、これら神経核および関連の脳機能制御におけるCRTH2の重要性を示唆した。 4. ヒトCRTH2遺伝子上の一塩基多型(SNPs)が統合失調症と関連することを見出すほか、情動機能というよりはむしろ特定の認知機能と関連する可能性を見出した。以上より、種々病態で認められる情動機能障害におけるCRTH2の新規創薬標的としての可能性が動物モデルで実証されたと共に、基礎および臨床の実験結果から、新たにCRTH2と特定の認知機能との関連が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平均すると「やや遅れている」と評価できる。ただし計画の遅れに関する問題点のトラブルシューティングは完了しており、経費も当初予定額の80%使用で抑えられていることから、最終的には当初の計画以上の成果を得ることができると期待される。なお研究目標を達成する上で必要な4項目の詳細な達成度は以下のとおりである。・(1)情動障害を呈する動物モデルにおけるCRTH2拮抗の治療効果の評価、については統合失調症モデルの確立過程において問題が生じたため本研究のみが未達成であり、やや遅れていると評価できる。・(2)各種精神疾患や性格傾向とCRTH2遺伝子の一塩基多型との関連解析、(3)CRTH2を介した情動機能制御に関する、神経化学/解剖学的な分子基盤解析、についてはおおむね順調に進展していると評価できる。しかし(2)の結果からは、予想外にもCRTH2と特定の認知機能との関連が示唆されたため、この点では当初の計画以上の進展が見られたとも評価できる。いずれにしても今後の推進方策に調整を加える必要が出ている。・(4)CRTH2のトレーサブル発現制御系の開発と機能評価、については(1)で生じた問題の解決に多くの実験を費やしたためほとんど進んでおらず、遅れていると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画から遅れている2項目を中心的に推進すると共に、新たに示唆された「CRTH2と認知機能との関連」についても、当初の計画にある「情動機能との関連」の対照として解析することで、当初の計画以上の成果を得ることを目標として実施する。遅れに関する対応策と、新たな解析/解析方策の変更に係る具体案は以下のとおりである。・(4)CRTH2のトレーサブル発現制御系の開発と機能評価、に最も多くの時間・経費を費やして同項目の達成を行う。また、(1)情動障害を呈する動物モデルにおけるCRTH2拮抗の治療効果の評価、については統合失調症モデルの確立について関連研究者とのディスカッションを通じて解決済であるため、早急の確立とCRTH2拮抗の評価を進める。・CRTH2の機能解析を情動‐認知連関の視点からの解析に変更し、(1)情動障害を呈する動物モデルにおけるCRTH2拮抗の治療効果の評価に関し、認知機能に関する評価項目を加えるほか、(3)CRTH2を介した情動機能制御に関する、神経化学/解剖学的な分子基盤解析に関し、これまで注目してきた扁桃体や視床下部に加え認知機能と関連する前頭前皮質や海馬も評価項目に加える。これら項目を研究期間内に効率よく実施するため、研究手法を精神行動機能テストバッテリー、in situ hybridization法を用いた解析へと転換させ、当初の計画以上の成果を得る。
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次年度の研究費の使用計画 |
(4)CRTH2のトレーサブル発現制御系の開発と機能評価、に重点的な予算配分を行うことにより期間内の達成を目指す。またin situ hybridization解析による必要経費の増加については、精神行動機能テストバッテリーの導入による必要経費の抑制を行い相殺する。その他、本年度の研究費は、成果発表に必要となる投稿論文の英文校正費や、学会発表時の旅費としても使用する。
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