研究課題/領域番号 |
23790086
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
新谷 紀人 大阪大学, 薬学研究科(研究院), 准教授 (10335367)
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キーワード | CRTH2 / PGD2 / 情動障害 / 認知機能障害 / 動物モデル / 一塩基多型 / sickness behavior / 精神疾患 |
研究概要 |
本研究では、これまで代表者が得た知見から導かれる仮説“CRTH2は情動障害の新規創薬標的になる”を基礎・臨床の実験系で検証すると共に、CRTH2の中枢機能を分子レベルで評価できる新手法の開発を目的として実施し、平成24年度は以下の結果を得た。 1. 統合失調症やうつ病のモデル動物として知られているPACAP遺伝子欠損マウス(KO)が呈するうつ様行動もまた、CRTH2拮抗薬によって抑制されることを明らかにした。 2. 精神行動機能のテストバッテリーを確立し、CRTH2-KOの認知機能を半網羅的に解析した結果、本マウスでは定常状態で大きな異常が見られないことを確認した。一方、グルタミン酸NMDA型受容体拮抗薬MK-801の急性投与(統合失調症モデル)で誘発される認知機能障害は、CRTH2の遺伝子欠損でほぼ完全に抑制されることを見出した。 3. ストレス誘発性の血中コルチコステロン増加がCRTH2-KOではほぼ正常に起きていることを確認した。 4. ヒトCRTH2遺伝子上の一塩基多型(SNPs)と特定の認知機能との間に極めて強い関連があることを明らかにした。 以上より、炎症病態のほか統合失調症やうつ病などでみられる情動・認知機能障害に関し、CRTH2の新規創薬標的としての有用性が基礎および臨床の両面から明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の作業仮説“CRTH2は情動障害の新規創薬標的になる”に関する基礎・臨床の実験系での検証はほぼ完了し、CRTH2が認知機能制御にも重要な役割を担うという予想以上の成果も得られた。一方で本研究実施項目の4本柱の1つである“CRTH2の中枢機能を分子レベルで評価できる新手法の開発”については、平成24年度に重点的に検討を進めた。しかし、同年6月にベクターの納品が1カ月遅れたほか、同実験系の不具合が判明し、その原因特定(細胞株の生育異常および遺伝子増幅系の不調)と改善におよそ7か月を要するなど、大きな遅れが出た。現在本実験系の確立を行うとともに、本実験系を用いた研究の完了を目指している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題において唯一実施が遅れているCRTH2のトレーサブルノックダウン系の確立を行う。ベクターの増幅と導入細胞株の培養などについてのトラブルシューティングは完了済であることから、本年度内の完了が可能と考えている。具体的にはCRTH2の発現をノックダウンするshRNAと蛍光蛋白とを同時に発現するベクターを導入した神経系細胞株を用い、代表者がこれまでに見出しているCRTH2の作用が本ノックダウン細胞(蛍光蛋白で標識)で消失するかどうかを検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
細胞培養用の試薬・器具やCRTH2を介した作用(神経突起伸展やMAP kinaseの活性化)を検出するための分子薬理学研究用試薬、および現在revise実験中の論文に対応した行動薬理実験用の試薬・器具の購入に用いる。
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