Lipin1は、生体内において脂質代謝の恒常性を維持するのに重要な因子である。具体的には細胞質においてトリグリセリド生合成する酵素として機能する一方、核内においは転写共役因子として脂肪酸酸化関連遺伝子の転写を調節している。これらLipin1の2つの機能はどのような機構で制御されているのかほとんどわかっていない。本研究では、プロテオミクスの手法を用いてLipin1と相互作用する因子を同定することで、Lipin1がもつ2つの脂質代謝機能の新たな制御メカニズムを解明することを目的とした。 前年度までにLipin1と共沈したタンパク質複合体をLC-MS/MSを用いて解析し、Lipin1と相互作用する候補タンパク質を得た。本年度はこれら候補タンパク質とLipin1との相互作用が実際に細胞内で行われているか否かを共発現による免疫沈降法で調べた。その結果、解糖系に関わる因子、ユビキチン-プロテアソームに関わる因子、プロリンの生合成に関わる因子がLipin1と相互作用していた。次にユビキチン-プロテアソーム関連因子に着目し、この因子とLipin1が相互作用する詳細な分子機構の解析を行ったところ、この因子とLipin1タンパク質が結合する部位を同定できた。また、Lipin1タンパク質はユビキチン-プロテアソーム関連因子と相互作用することにより、ポリユビキチン化されることがわかった。最後にヒト肝癌由来細胞株とプロテアソーム阻害剤を用いて、内在性のLipin1タンパク質の安定性を調べたところ、Lipin1がプロテアソームにより調節されていることを解明した。これらのことからLipin1は、今回新たに見出したユビキチン-プロテアソーム関連因子と相互作用することによりLipin1タンパク質の安定性を制御しており、この分子機構を介して細胞内の代謝機能を調節していることが予想された。
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