研究課題
本研究期間内に、CYLD が制御する肺線維化のメカニズムを明らかにすることを目的に、以下の検討を行った。【1.線維化肺組織の臨床検体を用いた解析】 肺線維症の臨床検体を用いた CYLD 発現解析および肺線維化レベルの定量化を行い、重篤な線維化を起こしている肺間質組織において CYLD の発現が著明に減少していることが明らかとり、肺線維症の進行にCYLD の発現が重要な役割を示している可能性を示した。【2.肺線維化モデルマウスを用いた解析】 CYLD 欠損マウスに肺炎球菌感染症を誘発すると、野生型と比較して14日後に肺間質組織に重篤な線維化が起こることが確認された。また、ブレオマイシン誘導性の肺線維化においても CYLD 欠損マウスが野生型と比較して重篤な肺線維化が起こることを示した。【3.細胞培養系を用いた CYLD の機能解析】 肺線維芽細胞胞株を用い、siRNA を用いた CYLD の遺伝子発現抑制を行い、細胞内シグナリングの変動、候補遺伝子の発現量変化などを評価した結果、線維化に深くかかわる細胞内シグナル伝達経路の一つである TGF-βシグナリングが CYLD の欠損により過剰に活性化されていることが明らかとなった。 以上1~3の結果より、CYLD は、肺の線維化に密接に関与しており、そのメカニズムとして TGF-βシグナリングが密接に関与している可能性が示された。次年度以降も、継続して肺線維化過程における CYLD の機能解析を行う予定である。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題では、肺の線維化が病態発現に深く関与している肺線維症ならびに肺癌に焦点を当て、CYLD に着目した病態解析を行い、CYLD が制御する肺線維化メカニズムを解明することを最終目的としているが、本年度の研究結果から、1.重篤な線維化を起こしている肺間質組織の臨床検体において CYLD の発現が著明に減少していること、2.CYLD 欠損マウスが、肺炎球菌感染症の場合と同様にブレオマイシン誘導性の肺線維化においても野生型と比較して重篤な肺線維化が起こること、3.CYLD が、線維化に深くかかわる細胞内シグナル伝達経路の一つである TGF-βシグナリングを制御している可能性が示されたこと、などの成果が既に得られており、次年度の移行の研究計画を遂行するうえで十分な基礎的知見が揃っている。
本年度の研究結果らえられた基礎的知見を基盤とし、次年度は、1. 肺線維化過程における CYLD の役割の解明(線維化肺組織の臨床検体を用いた解析、肺線維化モデルマウスを用いた解析、 細胞培養系を用いた CYLD の機能解析)を継続して行い肺線維症の詳細な病態解析を実施し、新たに、2.線維化肺組織における CYLD 発現低下メカニズムの解明、ならびに、3. 肺癌を誘発する肺線維化における CYLD の機能解明、を開始することで、新規慢性炎症制御因子 CYLD 機能低下の肺線維化における意味論を明らかにしていく予定である。
次年度以降は、消耗品として、リアルタイム PCR 関連費(300千円)、各特異的種抗体購入費(400千円)に加え、培養細胞や疾患モデル動物を用いたメカニズム解析を開始することが想定され、細胞培養器具・試薬(計200千円)、動物関連実験費(計150千円)等を計上している。また、旅費として米国細胞生物学会や関連学会(日本分子生物学学会)などでの成果発表、共同研究者との情報収集費として、国内旅費(計70千円)および国外旅費(計200千円)をそれぞれ計上している。
すべて 2012 2011
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (3件)
Nature Communications
巻: 3 ページ: 771
10.1038/ncomms1776
Int J Cancer
巻: in press ページ: in press
10.1002/ijc.27496
Oncology Reports
巻: 27 ページ: 1674-80
10.3892/or.2012.1684
PLoS One
巻: 7 ページ: e31049
10.1371/journal.pone.0031049
Cancer Lett
巻: 316 ページ: 23-30
10.1016/j.canlet.2011.10.013
Pharmacology
巻: 88 ページ: 327-32
10.1159/000334339