研究概要 |
胸腺・脾臓から血液中へのリンパ球の移出には、血漿中に一定濃度存在するS1Pが重要な役割を担っている。血漿中のS1Pは主に赤血球から供給されており、私は以前に、赤血球のS1Pが輸送体を介して細胞外へ放出されることを明らかにしている。本研究では、S1P放出輸送体が免疫抑制剤の新しいターゲットになると考え、S1P輸送担体の同定を試みている。 S1Pの輸送活性が測定できている赤血球の反転膜からS1P輸送担体を単離・同定することを目的として、光反応性S1P-biotinを合成し、赤血球反転膜の光親和性ラベリングを行った。S1P-biotinによりラベルされたタンパク質を、アビジンHRPを用いたウェスタンブロッティングにより検出したところ、約85 kDaの濃いバンドが観察された。このバンドは、UV照射依存的であり、過剰量のS1Pを加えることで、ラベル量が減少したことから、S1Pに特異的なラベリングであることが確認された。アビジンビーズを用いてラベルされたタンパク質を精製し、SDS-PAGEで分離後、質量分析を行った結果、SLC16A1, SLC43A1, SLC40A1, SLC14A1, RHD, CD36が同定された。これらの遺伝子をクローニングし、培養細胞に発現させたところ、どの遺伝子もS1P放出活性を示さなかった。S1P-biotinに対し特異的に結合したタンパク質が微量であり、質量分析により同定されなかった可能性があることから、ラベリング及び精製条件の検討やネガティブコントロールとの比較を厳密に行う必要があると考えられる。また、近年、S1P輸送体として同定されたSPNS2が、この光反応性S1P-biotinによってラベルされるかどうかも興味深い。SPNS2のS1P結合サイトが明らかになれば、SPNS2阻害剤のデザインも可能になると考えられる。
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