研究課題/領域番号 |
23790098
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
山口 智広 昭和大学, 薬学部, 准教授 (50347530)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 生化学 / 細胞生物学 / 脂質生化学 / 脂肪滴 / ステロイドホルモン |
研究概要 |
脂肪滴は、トリアシルグリセロール(TG)やコレステロールエステル(CE)といった中性脂肪がリン脂質一重膜で覆われた細胞小器官であり、脂質の貯蔵や代謝を制御している。この制御には脂肪滴表面タンパク質が重要な役割を果たしている。これまでの脂肪滴研究は脂肪細胞や肝細胞など、TG蓄積細胞が中心であり、CEを蓄積する脂肪滴についてはあまり研究されていない。ステロイド産生細胞はステロイドホルモン合成の原料となるCEを脂肪滴に多く蓄積している。私はステロイド産生細胞であるマウス精巣ライディッヒ細胞株MLTC-1を用いて、脂肪滴タンパク質のプロテオミクスを行い、結果として、多数のステロイド合成酵素が脂肪滴に存在することを見出した。従来、ステロイド合成酵素はミトコンドリアと小胞体に局在すると考えられており、脂肪滴でのこれらの酵素の役割は不明である。本年度は、MLTC-1細胞におけるステロイド合成酵素の局在について検討を進めた。GFP-HSD3b1とGFP-HSD17b11をMLTC-1細胞に発現させると、小胞体と脂肪滴の両方に局在が観察された。興味深いことに、黄体形成ホルモン(LH)やcAMPアナログでホルモン合成を刺激すると、脂肪滴の形態が劇的に変化することを見出した。LH刺激後2時間で脂肪滴が小型化して細胞質全体に分散し、小胞体と脂肪滴が融合する状態が観察された。この結果は蛍光抗体法だけでなく、ショ糖密度勾配遠心法によっても再現された。以上の結果は、ステロイドホルモン産生の制御に脂肪滴の形態変化が関与していることを示唆している。さらに、MLTC-1細胞だけでなく、他のステロイド産生細胞として副腎H295Rを用いて解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究開始にあたり、ステロイドホルモン産生刺激により脂肪滴の形態が変化し、脂肪滴膜が小胞体膜と融合するという仮説を立てていた。本年度の研究により、この機構が形態学的実験および生化学的実験の両面から確かめられたため、一定の成果が得られたと考えている。蛍光抗体法によるステロイドホルモン合成酵素の局在の解析、MLTC-1以外の細胞での解析も開始しており、研究の目的はおおむね順調に進行している。脂肪滴の形態変化を生細胞で観察する実験については、学内のタイムラプス観察が可能な顕微鏡の設置の問題で開始が遅れているが、次年度には実施できる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
基本的に申請の研究計画・方法に基づき、研究を遂行する。脂肪滴の形態変化について、まず、MLTC-1細胞だけでなく、他の細胞を用いた解析を進める。副腎由来のステロイドホルモン産生細胞であるH295R細胞を用いて、脂肪滴タンパク質のプロテオミクスを行い、ホルモン産生時の脂肪滴の形態変化を解析する。また、好中球のモデルとしてHL60細胞を用い、炎症反応と脂肪滴の関わりについて解析を行う。さらに、脂肪滴の膜構造の変化を生細胞で観察し、オルガネラとの相互作用を解析する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究経費は主に消耗品費として使用する。培養細胞を用いた実験が中心のため、細胞培養用試薬(細胞の購入、培地、血清、プラスチック類)の費用とする。ステロイドホルモン合成酵素の解析に関して、抗体の購入、遺伝子組み換え実験試薬、ホルモン産生を確認するためのELISA試薬を必要とする。また、プロテオミクスのためのタンパク質実験用試薬、電気泳動用試薬、LC-MS用試薬を購入する。タンパク質の細胞内局在の解析のために、蛍光抗体法用試薬、共焦点顕微鏡観察用試薬を購入する。旅費は研究成果発表のための国内旅費と研究打ち合わせに使用する。
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