細胞内脂肪滴は生体の脂質ホメオスタシスに主要な役割を果たす細胞小器官である。他の細胞小器官とは異なり、中性脂肪がリン脂質一重膜によって覆われた構造を持つ。脂肪滴の表面には多数のタンパク質が存在しており、脂肪滴の機能を制御している。従来、脂肪滴タンパクの機能解析はマウス由来の3T3-L1脂肪細胞を中心に進んできた。一方、他の細胞の脂肪滴の機能については不明な点が多く、本課題では主にステロイド産生細胞や好中球の脂肪滴について解析を進めてきた。これまでに、ステロイドホルモン産生細胞であるMLTC-1細胞において、黄体形成ホルモンによりステロイド産生刺激を与えると、脂肪滴の形態が変化し、脂肪滴タンパクの一部が小胞体に移行することを見出した。 本年度は研究計画に基づき、ヒト好中球(HL-60)およびヒト間葉系幹細胞(hMSC)由来脂肪細胞の脂肪滴の解析を行った。好中球の脂肪滴には主にPerilipinファミリーの1つであるPerililin-3が局在していた。siRNAによりPerilipin-3を発現抑制したところ、プロスタグランジンE2(PGE2)合成酵素が減少し、それに伴い好中球からのPGE2分泌が低下した。よって好中球の機能に脂肪滴タンパクであるPerilipin-3が主要な役割を果たすことが明らかとなった。また、hMSC由来の脂肪細胞に関して、LC-MS/MSにより脂肪滴タンパクのプロテオミクス解析を行った。hMSC脂肪細胞は3T3-L1脂肪細胞と同様の局在タンパクを有していたが、hMSC においては3T3-L1で観察されるような、カテコールアミン刺激による脂肪滴の形態変化は認められなかった。ヒトMSC由来の脂肪細胞ではマウス由来の細胞とは異なる脂肪分解機構を有していることが示唆された。
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