研究課題/領域番号 |
23790101
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
岡 沙織 帝京大学, 薬学部, 講師 (80439562)
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キーワード | 生理活性脂質 / リゾリン脂質 / リゾホスファチジルイノシトール / GPR55 / カンナビノイド |
研究概要 |
研究代表者は、これまでの研究で、新規カンナビノイド受容体として報告されたGタンパク質共役型のオーファン受容体GPR55の内在性リガンドが、リゾリン脂質の一種であるリゾホスファチジルイノシトール(LPI)であることを明らかにした。LPIに対する受容体の同定は研究代表者の報告が初めてである。ところで、LPIは代謝回転の早い不安定な化合物である。そのため、刺激に応じて速やかに産生され、代謝されると考えられるが、具体的なことは分かっていない。 今回の研究では、研究代表者が確立したLC-MS/MSを用いたLPIの測定系を用いて、様々な系におけるLPIの産生を調べた。その結果、マウス血中には相当量のLPIが存在することが分かった。最も多量に含まれていたのはアラキドン酸を含むLPIで、次いでステアリン酸を含むLPI、リノール酸を含むLPIであった。更に、血漿を加温することにより、種々のLPI分子種のうち、2-アラキドノイルLPIが選択的に産生されることも見いだした。このことは、LPIの産生にはホスホリパーゼA1が関与していることを示すものである。また、体内では、LPI、特に2-アラキドノイルLPIの産生および分解または取り込みが常に起こっていることも示唆される。GPR55に対しては、2-アラキドノイルLPIが最も強い活性を示すことから、2-アラキドノイルLPIが選択的に代謝回転していることは大変興味深い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
LPIは代謝的に不安定な物質であることから、血中には微量しか存在しないだろうと考えられたが、予想に反して、マウス血中には相当量のLPIが存在していた。LPIの受容体であるGPR55はリンパ球に多く発現していることから、スフィンゴシン 1-リン酸(S1P)の場合と同様に、リンパ組織と血中との間に濃度勾配がある可能性が考えられるので、今後の研究でこの点を明らかにしたい。また、血漿を加温することにより、2-アラキドノイルLPIが選択的に産生されることが分かった。このことは、血中にホスホリパーゼA1活性が存在することを示している。GPR55に対して最も強い活性を持つ2-アラキドノイルLPIが選択的に代謝回転しており、GPR55とLPIの生理的な重要性が示唆されたことから、研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
研究再開後は、LPIの産生についてさらに詳しく調べ、GPR55とその内在性リガンドであるLPIの生理的意義を調べる。具体的には、種々の培養細胞や、ヒト又はマウスから調整した血小板、顆粒球、リンパ球を、カルシウムイオノフォアやリポポリサッカライド(LPS)、TNF-α等で刺激した時にLPIが産生するかどうか、また、どの分子種のLPIが生成するかをLC/MSを用いて調べる。更に、産生されたLPIがどの程度細胞外に放出されるかについても検討を行う。また、LPIは、ホスファチジルイノシトール(PI)からホスホリパーゼA1又はA2によって産生されると考えられるが、これまでPIはホスホリパーゼCによって代謝されると考えられていたため、詳しいことは分かっていない。どのタイプのホスホリパーゼA1又はA2によりLPIが産生されるのかを明らかにしたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
産前産後の休暇及び育児休業による中断のため。 研究再開後は、LPIの産生についてさらに詳しく調べ、GPR55とその内在性リガンドであるLPIの生理的意義を明らかにする。繰り越した経費は、脂質の分析に必要なガラス器具・有機溶媒・HPLC カラム、細胞培養に使用するプラスチックディッシュ・ピペット・血清・培地、DNA ポリメラーゼや遺伝子導入試薬、ELISA キットや抗体、トレーサー実験の為のラジオアイソトープ、近交系マウスなど、全て消耗品の購入に充てたいと考えている。
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