研究代表者は、これまでの研究で、新規カンナビノイド受容体として報告されたGタンパク質共役型のオーファン受容体GPR55の内在性リガンドが、リゾリン脂質の一種であるリゾホスファチジルイノシトール(LPI)であることを明らかにした。LPIに対する受容体の同定は研究代表者の報告が初めてである。LPIは代謝回転の早い不安定な化合物である。そのため、刺激に応じて速やかに産生され、代謝されると考えられるが、具体的なことは分かっていない。研究代表者が本研究で確立したLC-MS/MSの測定系を用いて様々な系におけるLPIの産生を調べたところ、マウス血中には相当量のLPIが存在し、さらに、血漿を加温することにより2-アラキドノイルLPIが選択的に産生されることを見いだした。このことは、加温血漿におけるLPIの産生にはホスホリパーゼA1が関与していることを示すものである。また、体内でLPI、特に2-アラキドノイルLPIの産生と分解又は取り込みが常に起こっていることも示唆される。一方、アレルギー性炎症においても、2-アラキドノイルLPIが産生されていることが分かった。研究代表者はこれまでに、2-アラキドノイルグリセロール(2-AG、カンナビノイド受容体の内在性リガンド)がアレルギー性炎症に伴って増大することを報告してきた。2-AGはアラキドン酸含有ホスファチジルイノシトールからジアシルグリセロールを経て産生されると考えられてきたが、今回、炎症部位で2-アラキドノイルLPIの増大が観察されたことから、LPI経由の2-AG産生ルートが考えられた。今後は本当にLPIから2-AGが産生されるかどうか、酵素の同定を含め、検討を行う予定である。
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