研究概要 |
プロテインデータバンク(PDB)から約3600個NAD依存酵素の配座の調査を行い、NADの二リン酸部位の立体配座が酵素のファミリーと関連があることを突き止めた。アルコール脱水素酵素のような一般的な酸化還元酵素では、指標に用いた二リン酸のOPPO二面角が-60度という角を持つが、同じファミリーに属するが触媒反応の異なる二重結合還元酵素では、-20度の角度を持っていた。FAD依存酸化還元酵素や、ADPリボシル化酵素では、NADの配座は約180度の角を持ち、NADキナーゼやNAD環化酵素では+60度の角を持つことが確認できた。このように、補酵素の立体配座から酵素のファミリー分類を行う研究はこれまでのところ報告例はなく画期的な結果であると考えられる。次に、この分類によって、酵素を区別する化合物の合成を行った。光学活性なシクロヘキサンカルボン酸等を用いて、二リン酸部分の二面角を固定した化合物(TAD-(-60),TAD-180,TAD(+60))の合成を行った。一般的な酸化還元酵素(乳酸脱水素酵素、アルコール脱水素酵素)では、二面角に近い角度をもつTAD-(-60)が最も高い親和性を持つことが分かった。グルタチオン還元酵素は、直線的な配座を持つ酵素であり、TAD-180に対して、高い親和性があった。NADキナーゼに対してはTAD-(+60)が最も高い親和性が観測された。本研究にで明らかにした酵素分類は、化合物の設計段階で、酵素選択性を化合物に持たせることが可能になり、創薬に有用であることを示すことができた。この応用として、アルドース還元酵素に対する阻害剤の開発を試みたが、NADP依存酵素には2'位にリン酸が必須であるため、高い選択性を持つ化合物の合成には成功しなかった。また、人口補酵素の合成も行ったが、化合物は合成できたが、精製に問題が残る結果となった。
|