研究概要 |
本研究代表者は、細胞接着斑のターンオーバーを促進することで、がん細胞の浸潤・転移を亢進させる新規分子としてZF21を報告している。ZF21は、細胞接着斑のターンオーバーを制御する分子である、チロシンキナーゼのfocal adhesion kinase (FAK)、チロシンフォスファターゼのSHP-2、システインプロテアーゼのm-calpain、微小管構成分子のb-tubulinなどと結合することを明らかにしている。本研究は、ZF21とその結合分子の相互作用を阻害する合成ペプチドを作製し、これを用いた実験的がん浸潤抑制手法の確立を目標としている。 このような研究課題の達成のために、本年度は、ZF21のアミノ酸配列を分割した合成ペプチドライブラリーの構築を行った。また、相互作用を阻害するペプチドのスクリーニング系として、リコンビナントタンパク質を用いたプルダウン法を用いるために、本年度は、ZF21, FAK, SHP-2, m-Calpain, b-tubulinの各リコンビナントタンパク質の発現ベクター構築および発現大腸菌を作製し、各精製タンパク質を調製した。次年度は、これらを用いて、ZF21とFAK, SHP-2, m-Calpain, b-tubulinの各結合を阻害する合成ペプチドをスクリーニングし、同ペプチドを用いたがん浸潤阻害の検討を行う。 また、ZF21の二量体形成機構の解析を行うために、ZF21の部分変異型リコンビナントタンパク質を調製し、プルダウン法による解析を行った。現在までに、ZF21はFYVEドメインを介して二量体を形成することを示唆するデータを得ており、さらに結合領域を絞り込むために、ZF21のアミノ酸配列中にアラニン置換を導入した15種類の変異型ZF21の発現ベクターを構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、本研究では、FAK, SHP-2, m-Calpain, b-tubulinの各分子中に含まれるZF21結合配列を同定し、これを基に合成ペプチドを調製し、各分子とZF2との相互作用阻害によるがん浸潤抑制手法を構築する計画を立てていたが、研究を効率的に進めるために、ZF21のアミノ酸配列を分割して作製した合成ペプチドライブラリーを構築し、その中からZF21とその結合分子間の相互作用を阻害するペプチドをスクリーニングすることとした。このため、研究を効率的に行うことができ、本年度内に、合成ペプチドライブラリー、各種リコンビナントタンパク質、哺乳動物発現ベクターの構築を終えており、解析に必要な実験材料の調製をほぼ終えている。従って、本研究は、概ね順調に進展していると考えている。次年度は、これらの実験材料を用いて、がん浸潤を阻害する合成ペプチドのスクリーニングに取り掛かる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、本年度に調製したZF21配列由来の合成ペプチドライブラリーから、ZF21と各ZF21結合分子の相互作用を阻害する合成ペプチドのスクリーニングを進める。具体的には、本年度に調製したリコンビナントZF21とFAKまたはSHP-2, m-Calpain, b-tubulinの結合を阻害するペプチドをプルダウン法およびウエスタンブロッティング法にて検索する。 更に次年度は、ZF21の新たな結合分子として見出した転写因子Nrf-2とZF21の結合阻害によるがん浸潤への影響を解析するために、前述の手法で結合阻害ペプチドのスクリーニングを進める。 結合阻害活性が認められた合成ペプチドは、細胞内移行性を亢進させる目的で、アミノ末端側をRRRRRRR配列で標識する。同ペプチドを用いて、がん細胞の浸潤能への影響を、transwell invasion assay法により解析する。
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