研究課題
本研究は、血液脳関門(BBB)および視床下部・海馬機能を調節する「脳神経血管機構(neurovascular unit)」の基幹細胞として「脳ペリサイト」を捉え、本細胞が高血糖状態を感知し、シクロフィリンA (CypA)などの液性因子を介してBBB・脳神経のインスリン抵抗性を惹起することにより、糖尿病病態の形成・進展を担う可能性を追求する。本研究は糖尿病治療における新たな治療標的を提示しようとするものである。平成23年度はCypAによるBBB機能調節作用について検討した。BBB構成細胞におけるCypAおよびCD147発現量の比較;BBBを構成する脳血管内皮細胞、ペリサイトおよびアストロサイトにおいてCypA受容体であるCD147の発現が認められた。これら細胞からのCypA分泌量を比較すると、ペリサイトからのそれが最も多かった。これらの結果は、ペリサイト由来CypAが血液脳関門構成細胞間cross talkの伝達因子である可能性を示唆する。BBB機能に対するCypAの作用; CypAのBBB機能に対する作用を明らかにするため、in vitro BBBモデルにCypAを負荷し、tight junction機能をTEERおよびNa-F透過性を用いて評価した。血液側にCypAを処理すると濃度依存的にNa-F透過性は減少したが、TEERは変化しなかった。脳実質側への負荷では、TEERおよびNa-F透過性は変化しなかった。これらの結果から、血液中のCypAは脳血管内皮細胞の密着結合能を亢進すること、また、脳実質側のCypAはその密着結合能に直接的に関与する可能性が低いこと、が考えられる。以上、CypAがBBB機能を担う内因性物質である可能性を提起した。ペリサイト由来CypAの役割については今後明らかにしていく必要がある。
2: おおむね順調に進展している
糖尿病病態下での血液脳関門のインスリン抵抗性形成過程におけるCypAの役割を明らかにするため、CypAの血液脳関門機能に対する影響を検討した。本年度は、CypAによる血液脳関門機能の強化について明らかにした点を考慮し、研究の進捗状況としておおむね順調と評価できる。
CypAによる血液脳関門機能の病態依存的調節についてさらに追究するとともに、摂食中枢を担う視床下部神経に着目し、そのインスリン感受性に対する脳ペリサイト由来液性因子(CypAを含む)の影響を明らかにする。また糖尿病モデル動物の脳切片を用いてCD147発現量の変化についても検討する。これらの成果は「脳神経血管機構」の糖尿病病態における脳ペリサイトの役割の解明に繋がる「糸口」となる。
実験用動物:脳血管内皮細胞および脳ペリサイトは不死化細胞株が樹立されているが、密着結合性が不十分であるなど細胞株特有の問題を有するため、本研究の目的には不適当である。本研究では細胞実験は全て初代培養細胞を用いる。糖尿病モデルマウス実験用動物(3週齢ラット)を月平均約70匹使用する予定のため、26万円必要となる。培養関連試薬:初代培養細胞を採取する為の試薬や培養細胞の培養・維持に培地、血清などの試薬を使用する。25万円必要となる。培養器具:In vitro BBBモデル作製にCostar社 12 well Transwell(1箱約2万5千円)が必要である。抗体、一般試薬、飼料等: 抗体はCypA、MMP発現の定性・定量に必要不可欠である。各年度高脂肪食を購入する。35万円必要となる。旅費等:成果発表の為、年1回開催される国際学会への参加、さらに論文投稿にかかる費用として24万円計上した。
すべて 2012 2011
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (4件) 産業財産権 (1件) (うち外国 1件)
J Neuroinflammation.
巻: 26:8 ページ: 106
10.1186/1742-2094-8-106