研究課題/領域番号 |
23790115
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
牧野 麻美 独立行政法人理化学研究所, 小林脂質生物学研究室, 特別研究員 (20373368)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | コレステロール / スフィンゴミエリン / ラフト / ニーマンピックC型 / インフルエンザ / ウイルス感染 |
研究概要 |
脂質ラフトはスフィンゴ脂質とコレステロールに富んだ細胞膜脂質ドメインで、膜を介する情報伝達、細胞内膜輸送、ウイルスやバクテリアの感染など様々な生物現象に重要であると考えられている。しかし、脂質ラフトの実体についてはまだ分からないことが多い。私は食用キノコを材料にスフィンゴミエリンとコレステロールの複合体に特異的に結合するタンパク質のスクリーニングを行い、新規タンパク質を同定した。本研究ではこのタンパク質と他の脂質ラフト結合性のプローブを併用して脂質ラフトの構造と動態を明らかにするとともに、ウイルス感染における脂質ラフトの役割の解明を目標にしている。本年度は脂質の詳細な分布を調べるため、共焦点レーザー顕微鏡や全反射顕微鏡によるプローブの分布の解析を行うとともに、laurdanやdi-4-ANEPPDHQ(Proc Natl Acad Sci USA 100, 15554 (2003))等の膜環境依存性の色素を併用し、膜の物性と脂質の分布との相関を調べた。理化学研究所・小林脂質生物学研究室の岸本琢磨研究員との共同研究により行った。本研究ではコレステロールの代謝に異常のあるニーマンピックC型病の患者の細胞を用いて実験を行った。細胞表面を脂質ラフト結合タンパクを用いて観察したところ、正常な人の細胞と、患者の細胞では染まり方が異なり、細胞表面のコレステロールなどの脂質の分布が異なることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではこのタンパク質と他の脂質ラフト結合性のプローブを併用して脂質ラフトの構造と動態を明らかにするとともに、ウイルス感染における脂質ラフトの役割の解明を目標にしている。本年度は脂質ラフトの構造を明らかにするために、共焦点レーザー顕微鏡を初め、全反射顕微鏡、電子顕微鏡など様々な顕微鏡をもちいて、脂質ラフトの詳細な構造解析を行った。その結果、ラフトに存在する脂質とタンパク質の共局在が確認でき、ラフトの構造が明らかになりつつある。それに加えて、二番目の目的であるウイルス感染における脂質ラフトの役割の解析を調べるために、インフルエンザウイルスを用いた実験を開始した。その結果、脂質ラフト結合タンパク質がインフルエンザウイルスの感染を阻害する予備結果が得られた。どのような機構で阻害するかはこれから研究する必要があるが、本研究は順調に進展していると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの一連の研究を通して脂質ラフトは非常にヘテロであり、脂質ラフトの全体像を理解するためには数多くの脂質プローブが必要であることを痛感している。例えば私たちがスフィンゴミエリンを検出するために用いているライセニンはスフィンゴミエリンがクラスターを結合するときにのみ結合する。一方最近スフィンゴミエリンに結合するタンパク質がいくつか報告されているが、これらのタンパク質とライセニンが同じようなスフィンゴミエリンの認識の仕方をしているのかはわかっていない。今後はエキナトキシンやクラムライシンのような他のスフィンゴミエリン結合タンパク質とライセニンとの違いを詳細に検討し、もし違いがあればこれらのプローブを駆使することにより、細胞におけるスフィンゴミエリンの集合状態の詳細の情報を得ることを試みる。同様の研究をコレステロールについても行い、脂質ラフトの全体像を理解することを試みる。一方でタンパク質プローブを用いて脂質を標識する方法は結局はタンパクを見る実験になり、脂質の分子振動といったような脂質ラフトの物性の本質にかかわる部分はこの方法では見ることができない。この点を解決するため現在ラマン顕微鏡を用いて脂質を見る方法を導入し、検討を始めている。今年度はこのようなタンパクプローブを使わない脂質の解析方法についても検討したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度に集中して予算を使用する目的で825,216円繰り越した。予算は主として消耗品の購入(プラスチックディッシュ、プラスチックピペット、培地、血清、脂質実験のためのガラス試験管、蛍光標識脂質、抗体)に充てる。
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