本研究ではキノコを材料にスフィンゴミエリン(SM)とコレステロール(Chol)の複合体に特異的に結合するタンパク質と他の脂質ラフト結合性のプローブを併用して脂質ラフトの構造と動態を明らかにするとともに、ウイルス感染における脂質ラフトの役割の解明を目指した。 まず初めにこのタンパク質の脂質への結合をいくつかの方法を用いて調べた。その結果、ELISA法、リポソーム結合法において、SM/Cholに特異的に結合することがわかった。このタンパク質を用いて細胞を染色すると、細胞表面は一様に染まり、SMのプローブであるライセニンと共局在した。さらにラフトに存在するといわれているタンパク質(H-Ras)と共局在する一方、ラフト依存的でないK-Rasとは一致しなかった。以上の結果からこの新規タンパク質がラフトマーカーとして使用できることが示唆された。 そこで、我々は細胞内にコレステロールが蓄積する病気、ニーマンピックC型病患者(NPC)の細胞を用いて、この細胞の脂質ラフトがどうなっているか調べた。正常細胞では細胞表面が一様に染まるのに対し、NPC細胞では細胞表面にドメインを形成していることが示唆された。 さらに近年インフルエンザウイルスの感染に脂質ラフトが重要な役割をしているという報告があることから、このタンパク質を用いて、ウイルスの感染阻害を試みた。その結果、タンパク質があると、インフルエンザウイルスが細胞からリリースされるのが阻害されることがわかった。まだどのような機構で阻害されるかは明らかになっていないが、今後の研究により、このタンパク質が抗インフルエンザ薬として使用できる可能性を示唆している。
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