研究概要 |
肥満、インスリン抵抗性などのメタボリックシンドロームは脂質代謝異常や慢性炎症に起因する。我々は肥満マウスのマイクロアレイ解析により、二種の分泌性ホスホリパーゼA2 (sPLA2-V, IIE)が脂肪細胞に著しく発現誘導されることを見出した。高脂肪食 (HFD)負荷したsPLA2-V 欠損マウスでは肥満、インスリン抵抗性、脂肪肝、高脂血症が増悪し、一方脂肪組織特異的sPLA2-V過剰発現マウスでは脂肪の蓄積が抑制された。sPLA2-Vは脂質運搬に関わるリポタンパク質(LDL)中のホスファチジルコリンを分解して高脂血症を改善し、さらにTh2優位の免疫応答を促進して脂肪組織の炎症を抑制することで、メタボリックシンドロームに対して防御的に作用することがわかった。これに対し、HFD負荷sPLA2-IIE欠損マウスでは内臓脂肪の蓄積、脂肪肝、高脂血症が抑制された。sPLA2-IIEはリポタンパク質の微量リン脂質 (ホスファチジルエタノールアミン, ホスファチジルセリン)を選択的に分解することによりその性質を変化させ、組織への脂肪蓄積を促進するものと考えられた。以上より、sPLA2-VとsPLA2-IIEは過栄養により脂肪細胞に誘導され、全身の代謝状態を制御する「metabolic sPLA2」であることが明らかとなった。ヒト脂肪組織のsPLA2-Vの発現とBMIおよび血漿LDLレベルが逆相関を示すことから、sPLA2-Vはメタボリックシンドロームの新しい診断マーカーとして期待される。
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