研究課題/領域番号 |
23790126
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山口 貴世志 東京大学, 医科学研究所, 助教 (50466843)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
キーワード | 大腸がん / 分子標的治療 / ヒストン修飾 / 発現制御 / ゲノム |
研究概要 |
以前の研究において、大腸がんで発現亢進を認めるMRG-binding protein (MRGBP)はBRD8と結合し、BRD8の発現を増加させることを見出したが、詳細なメカニズムは不明であった。今回の検討により、BRD8は細胞内でユビキチン化され、プロテアソーム依存的な分解によって発現調節されていることが明らかとなった。さらに、MRGBPはBRD8のユビキチン化を抑制することによってBRD8タンパクの安定化を引き起こすことが明らかとなった。BRD8はブロモドメインを有することや、TIP60ヒストンアセチル化酵素複合体の構成因子であることから、ヒストンアセチル化を介してゲノムワイドに遺伝子の発現調節を行なっているものと考えられる。BRD8の標的遺伝子を同定するために、RNAiによるBRD8ノックダウン細胞の遺伝子発現プロファイル解析や、そのデータの生物学的な機能解析(Gene ontology解析、Pathway解析)を行なった。その結果、BRD8機能は細胞周期の進行に関わる多くのプロセスに関与していることが示唆された。同時に、その要因として転写因子E2Fの標的遺伝子群に著しい発現変動が見られた。以上のことより、BRD8がE2Fの転写活性を制御し、細胞周期を調節しているという興味深い知見を得ている。今後はこの詳細な機構を明らかにし、MRGBP-BRD8が関与する大腸がんの発生・進展メカニズムの解明を目指す。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
MRGBPはBRD8の発現調節を介してがんの発生または進展に関与しているものと考えられる。治療標的としては、MRGBPやBRD8は酵素活性を有さないため、この結合を阻害する低分子化合物などが有効であると思われる。そのため、MRGBPとBRD8の結合部位の同定やMRGBPによるBRD8の安定化メカニズムを解明できたことは、将来の治療薬開発においてとても有用である。また、BRD8に関する論文報告はほとんどなく、その機能は不明であった。今回のマイクロアレイデータの生物学的な機能解析によって、BRD8機能の一部が明らかになりつつある。すなわち、BRD8が転写因子E2Fを介して、細胞周期を調節していることを示唆するデータを得ている。網羅的な遺伝子発現解析からE2FをBRD8のターゲットとして同定できたことは、今後の生命科学の研究進展にも大いに役立つものと思われる。これらの成果から、BRD8の安定化メカニズムの解明やBRD8の標的遺伝子群を同定など、今年度の目標をほぼ達成できたと考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでにヒストンアセチル化酵素TIP60はMyc、NFkB、E2F、p53、および核内レセプター群など約20種類の転写因子と結合することが明らかになっていることから、BRD8はTIP60と結合する転写因子をプロモーターにリクルートしている可能性がある。実際に、今回のマイクロアレイ実験は、BRD8がTIP60-E2F をクロマチンへリクルートしている可能性を示唆するものであった。そこで、BRD8とE2Fを細胞に共発現させ、免疫沈降法によってBRD8とE2Fの結合実験を行うことや、E2F抗体を用いたChIP-chip解析により、E2Fのクロマチンへのリクルートに関する仮説を検討する。一方で、BRD8はTIP60のアセチル化活性を直接制御している可能性も考えられる。TIP60アセチル化活性の測定系を樹立し、BRD8はこの活性を変化せるかどうか検討する。最後に、BRD8の細胞周期への関与を検討するため、BRD8ノックダウン細胞を用いたフローサイトメトリー解析を行う。これらの解析を通じて、BRD8がTIP60-E2F複合体を介して転写を調節し、この制御機構破綻が癌化に関与しているのかどうか検討する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
細胞培養(培地・血清・シャーレ)、細胞への遺伝子導入(導入試薬)、クローニング(プライマー・酵素)、定量PCR (プライマー・試薬・プレート)、免疫組織染色(試薬・抗体)、免疫沈降(抗体・ビーズ)、ウエスタンブロッティング(抗体・検出用試薬)に関する消耗品。クロマチン免疫沈降に使用する抗体、試薬、DNAチップなど。アセチル化アッセイに使用する放射線ラベル化アセチル基供与体、リコンビナントタンパク精製試薬など。
|