研究課題
TIP60ヒストンアセチル化酵素の発現異常は、細胞のがん化に関与することが知られている。この酵素複合体の構成因子であるBRD8は大腸腫瘍で発現上昇を認めることから、BRD8もがん化に重要な役割を演じている可能性が考えられる。前年度の研究で、MRG-binding protein(MRGBP)と BRD8の相互作用により、BRD8タンパクのユビキチン化が抑制され、 BRD8の分解が抑制された結果、発現が増加することを明らかにした。BRD8のブロモドメインはアセチル化されたヒストンを認識することから、転写調節に関与するものと考えられる。そこで本年度は、BRD8-TIP60複合体が調節する標的遺伝子群を同定するため、BRD8とTIP60それぞれをノックダウンした大腸癌細胞の遺伝子発現プロファイルを解析した。その結果、BRD8とTIP60が共に調節する遺伝子群が同定され、細胞の極性に関わる分子や抗がん剤の感受性に影響を与えるような分子の発現調節を行っていることが明らかとなった。これらの遺伝子群の中から、現在抗がん剤の耐性に関係する遺伝子の発現変動とそのメカニズムを解析している。本研究結果は、BRD8ががん細胞の運動や細胞死調節に関わっている可能性を示唆するものであり、BRD8とMRGBPの結合を阻害する低分子化合物、あるいはBRD8のアセチル化リジン結合ポケットを阻害する低分子化合物が、がんの浸潤・転移の抑制や抗がん剤耐性を示すがんの治療薬開発に役立つものと期待される。
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Proc Natl Acad Sci USA.
巻: 110(8) ページ: 3023-3028
DOI:10.1073/pnas.1217039110