生理活性低分子において、疎水性構造は標的分子との疎水性相互作用の形成や化合物の物性の決定に寄与し、その活性やADMEに大きく影響する。ケイ素をはじめとする高周期14族元素を含有する官能基は疎水性基としての応用が期待される一方で、その性質に関する系統的な検討は報告されていない。本研究では、高周期14族元素を含む官能基の疎水性基としての精査と、生理活性物質への応用を目的として、種々のトリアルキルシリルおよびトリアルキルゲルミルフェノール誘導体を合成し、置換基の疎水性パラメータの決定と、エストロゲン受容体(ER)リガンドとしての機能を検討した。疎水性パラメータとしては、オクタノール/水分配係数PをHPLC法により求めた。その結果、ケイ素誘導体は、いずれも対応する炭素誘導体と比較して約0.6高いlogP値を与え、炭素原子をケイ素原子へと置換することにより疎水性がほぼ一律に上昇することを示した。一方、ゲルマニウム官能基も対応する炭素官能基と比較して約0.6高いlogP値を示し、ケイ素置換とゲルマニウム置換では疎水性に大きな差がないことを明らかにした。合成した化合物のERに対する活性を、ヒトERに対する結合親和性およびエストロゲン依存的に増殖するMCF-7細胞に対する増殖促進活性で評価した結果、シリルおよびゲルミルフェノール誘導体は、対応する炭素誘導体と比較していずれも高いエストロゲン活性を示し、特にトリエチルシリルフェノールおよびトリエチルゲルミルフェノールはMCF-7評価系でそれぞれ3.4nMおよび2.1nMの値を示し、非常に単純な構造でありながら高いERアゴニスト活性を有することを見いだした。本結果は、ケイ素およびゲルマニウム置換が新規生理活性化合物創製の強力なツールとなることを示すとともに、生理活性化合物の分子設計や定量的構造活性相関における有益なパラメータとなるものである。
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