海洋メタゲノム由来生合成遺伝子を利用した物質生産技術の基礎を築くために、医薬品のリードにもなるシデロフォアを対象に検討を行った。その結果、これまでにメタゲノムライブラリから50以上のシデロフォア生産クローンを取得し、また4つのクローンについてはその生合成遺伝子クラスター全長を決定した。そのうちの一つは遺伝子クラスター全長が25 kbp 以上あり、これは土壌および海洋メタゲノムを問わず、機能ベーススクリーニング法で取得された生合成遺伝子クラスターとしては最大級のものであり、その実用性の広さを示した。また、既知類縁遺伝子と比較した結果、新規化合物の生産が期待され、現在その生産物の解析を進めている。また、他のクローンからは2種のシデロフォアvibrioferrinとbisucaberinの生産と同定に成功しており、海洋メタゲノム法による生理活性物質の異宿主生産を実現するとともに、各種生物試験に対し試料の供給を行った。さらに、生合成遺伝子クラスターの一部を、他の遺伝子に置換した改変クラスターを構築したところ、最終産物の構造変換に成功し、生産物多様化の例を示した。一方、bisucaberin生合成酵素は未解明な点が多い酵素による大環状化反応の分子機構を解明するために有用であると考え、構造生物学的な解析を行うために結晶化を試みており、現在初期結晶の取得に成功している。この様に難培養微生物から有用遺伝子を取得するというメタゲノム法から始まり、取得した遺伝子を利用した多様な展開へと発展することができた。
|