研究課題/領域番号 |
23790137
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研究機関 | 東北薬科大学 |
研究代表者 |
小田 彰史 東北薬科大学, 薬学部, 講師 (50433511)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | タンパク質-リガンドドッキング / インシリコ創薬 / 分子シミュレーション / 多目的最適化 |
研究概要 |
平成23年度はタンパク質-リガンドドッキングにおいて複数のスコア関数でスコアリングを行い、パレート最適解を算出するためのスクリプトを作成した。また、既存のドッキングソフトウェアおよびスコア関数を用いて、そのスクリプトの機能評価を行った。その結果、パレート最適解をコンセンサススコアのように使用することで、実験的に得られた複合体構造を再現するモデルが比較的効率よく得られることが判明した。多目的最適化の原理上、使用するスコア関数を増やすほど実験結果を再現できる可能性が増加するが、その反面偽陽性のモデルも増加する。今回の評価の結果、使用するスコア関数を4種あるいは5種とすることで成功率と効率を両立させることができることが示唆された。また、成功率・効率ともに使用するスコア関数に依存するが、4種あるいは5種程度のスコア関数による多目的最適化であれば比較的スコア関数による影響を受けないことも示された。これは従来のコンセンサススコアとは異なる挙動であり、パレート最適解の利用がタンパク質-リガンド複合体の予測構造を評価するための新たな手法となり得ることを示している。また、多目的最適化の段階で予測構造の数をコントロールする技術は、その後に行う熟練実験者による化合物構造の選別・最適化といった段階をスムーズに行うために必須であるため、今後の展開においてこの結果は非常に重要である。多目的最適化のための手法の開発および評価に加え、新たな評価関数を作成するための原子電荷計算手法および分子力場パラメータの開発・評価も行った。いずれにおいても量子化学計算による結果を利用し、高速かつ高精度に原子電荷やエネルギーが計算可能なツールを作成した。これらのツールは高速性の要求されるタンパク質-リガンドドッキングにおいて分子の性質を計算する際に有用となることが期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題では多目的最適化および対話型最適化をタンパク質-リガンド複合体構造予測に適用することを目的としている。平成23年度では多目的最適化のためのスクリプトを作成し、当初の予定通り既存のドッキングプログラムおよびスコア関数に対して適用した。また、立体構造既知のタンパク質-リガンド複合体構造を利用した手法の評価についても実行し、多目的最適化がタンパク質-リガンドドッキングにおいてどのように振る舞うのかを明らかにすることができた。さらに新規なスコア関数を作成する上で重要な電荷計算法や分子力場パラメータの調査等も行い、それらの評価のための分子シミュレーションについても平成23年度中に実行した。これらのことから、当初の予定通りおおむね順調に進展しているものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度の結果を踏まえ、多目的最適化および対話型最適化手法のブラッシュアップを計る。より多様なドッキングエンジンやスコア関数の使用が可能なように拡張し、ユーザビリティの向上を行う。また結果の可視化についても検討し、可視化ソフトウェアとの連携のためのスクリプトの作成や、場合によっては可視化を行うソフトウェアそのものの準備についても検討する。ドッキング手法の準備に加え、新規なスコア関数の準備についても行う。補酵素や非天然アミノ酸など、計算ツールがこれまで十分に用意されていなかった系についてのツールの用意を引き続き行い、目的に応じた計算が速やかに行えるよう準備する。これら手法の整備とともに、実際の系に対する適用あるいはベンチマークも行う。特定の疾患を対象とした分子標的薬の開発や、薬物動態に関わる酵素-リガンド間相互作用の同定などを対象に、本課題で準備した手法を使用する。
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次年度の研究費の使用計画 |
ドッキング手法の開発と平行してスコアリングのためのツールの開発も行うため、計算機環境の整備を行う。ドッキングおよび分子シミュレーション、量子化学計算のために必要なLinuxワークステーションを購入し、計算に必要なソフトウェアについても準備する。さらに得られた研究成果を報告するための学会参加についても、3件程度を計画している。また論文出版を行うための投稿に際した費用も必要とする。
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