平成25年度は、前年度に引き続いて多目的最適化の概念をタンパク質-リガンドドッキングに応用する研究を行ったとともに、多数得られるドッキングポーズのいずれを選択するかについていくつかの方法を試行した。前年度までに使用するスコア関数の組み合わせを制限して偽陽性を減らす方法や、Ligand-Based Drug Design (LBDD) の技術を用いてドッキングポーズを選別する方法について検討してきたが、本年度では実験データが存在する場合にそれを利用する方法や、分子シミュレーションの結果を参考にしてドッキングポーズを選択する方法について調査を行った。計算機を利用した創薬は実験と協働して機能することが望まれているが、タンパク質-リガンド複合体構造の推定においてもそれが有用であることを示した。分子シミュレーションはそれと対照的に計算化学的な方法であるが、これについては実験的なデータが得られていない(あるいはそもそも得にくい)系に対しても検討することが可能であることがわかった。 また一方で、ドッキング手法そのものについての検討も行った。コンピュータで用意したリガンドの立体構造がドッキング結果にどのような影響を及ぼすか、いくつかのドッキングソフトウェアに対してベンチマークを行った。またホウ素含有化合物やアミノ酸の変異過程における中間体など、従来計算化学で扱うことの困難であった系を扱えるようにするためのパラメータの構築についても行った。 研究機関全体を通じて、多目的最適化をタンパク質-リガンドドッキングに応用する手法を構築し、また得られたドッキングポーズを実験データやLBDD手法、分子シミュレーションなどを用いて対話的に処理するための方策についても確立した。これらの結果はin silico創薬において必須のタンパク質-リガンド複合体構造の構築に有用であることが期待できる。
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