基質型阻害剤のヒドロキシメチルカルボニル(HMC)のα炭素とカルボニル炭素の間にC2回転軸を想定し、回転前と180度回転後の構造を重ね合わせ、次に各々のP´部位を除去し、HMC-ヒドラジド構造で連結させて擬似対称型阻害剤をデザインした。阻害剤の両末端構造には、HIVプロテアーゼとの結合モデルの分子動力学計算の結果から架橋水が配置できると想定されたオキサミド構造を採用した。この擬似対称型阻害剤の構造から、N-末端のオキサミド置換基、P2/P2’部位のアミノ酸、P1’のヒドラジド置換基を変換した種々の阻害剤を設計し、通常のペプチド縮合法により合成した。 両方のN-末端をベンジルオキサミドに固定してP2/P2’部位のアミノ酸を変換した中で、バリンの誘導体の野生型HIV-1 プロテアーゼ阻害活性が最も高かった。また、P1’のヒドラジド置換基を3-フラニルメチルに変換した誘導体は、ベンジル体と同様のnMレベルの阻害活性を示すことが分かった。N-末端のオキサミド基を変換した誘導体の中には、o-アミノ基で置換したベンジルオキサミドが有効で、野生型HIVプロテアーゼに対しては既存の基質型阻害剤KNI-272よりも活性が低いが、薬剤耐性変異プロテアーゼに対してはKNI-272を上回る活性を示すことを見いだした。これら擬似対称型阻害剤のHTLV-Iプロテアーゼ阻害活性は比較的弱く、更なる構造最適化が必要である。 また、本研究にて獲得した擬似対称型阻害剤と野生型HIVプロテアーゼの複合体のX線結晶構造解析に成功した。以前より分子動力学計算では架橋水が4つ存在することを予測していたが、実際のX 線結晶構造では5つの架橋水の存在が確認された。今後、これらの架橋水の位置を特定した阻害剤設計を行うことで、HIVおよびHTLVプロテアーゼの高活性阻害剤が獲得できると期待される。
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