研究課題/領域番号 |
23790150
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
今西 哲 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 特任研究員 (50462479)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 毒性評価 / 多能性幹細胞 / 神経毒性 |
研究概要 |
マウス胚性幹細胞から、既報に基づいて大脳皮質様構造を分化誘導し、成熟神経マーカーMap2、アストロサイトマーカーGfap、神経幹細胞マーカーNestinに対する抗体で染色をほどこしたところ、神経幹細胞が中心部に集まり、外側で成熟神経細胞やアストロサイトが層をなす構造が確認できた。また分化の各段階で、神経系細胞の種々の分化ステージマーカーの発現を定量的RT-PCRで調べたところ、既報と一致する結果を得た。このことから、大脳皮質様構造作成の再現は成功した、しかし分化効率が予想より悪く、また分化のタイミングにも大きなばらつきがみられた。毒性評価を目的とする本研究において、このようなばらつきは大きな問題である。分化条件の最適化を試みた結果、ヒト多能性幹細胞用の神経分化培地を使用した場合、形態的に神経様以外の細胞がほとんど出現しないことが確認できた。マウス胚性幹細胞については、今後の実験をこの条件で進める予定である。 ヒト多能性幹細胞からの大脳皮質様構造の分化には、50日以上の期間を要することが報告されている。毒性評価に用いるには分化誘導期間の短縮が欠かせない。ヒト多能性幹細胞を或る条件で維持培養すると、神経上皮細胞様の形態を呈する細胞が出現した。この細胞を神経系に分化誘導すると、従来よりも短期間でMAP2陽性神経細胞が出現することが分かった。またドーパミン神経細胞マーカーTh陽性の細胞も確認でき、成熟した神経が分化していることが明らかになった。一方、この細胞を通常の維持条件で培養すると、ヒト多能性幹細胞様の形態を呈し、様々な細胞に分化できることが確認できた。これらの結果から、この細胞は多能性を維持しながら、神経系に分化しやすい性質を獲得していると考えられ、毒性評価には有用な細胞であると思われた。 以上のように、本研究課題の懸案であった、分化効率の向上と分化期間の短縮に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
23年度中にモデル物質の曝露実験を行う予定であったが、多能性幹細胞の維持、分化条件の最適化に手間取ってしまい実施できなかった。一方、分化効率の向上と分化期間の短縮において大きな進展がみられ、本研究の目的達成に向けて確実に前進したと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
マウス多能性幹細胞を用いる系に関しては、23年度に確立した手法を用いて、可及的速やかにモデル物質の曝露実験を実施し、毒性評価法としての妥当性を評価する。 ヒト多能性幹細胞を用いる系に関しても、23年度に得た結果をもとに大脳皮質様構造の作成と、モデル物質の曝露実験を開始する。併行してGFP導入細胞の樹立、遺伝的背景のことなる人工多能性幹細胞の入手を進め、系の完成後に応用できるよう準備を進める。これによって、当初目的を達成する。
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次年度の研究費の使用計画 |
多能性幹細胞の維持、分化手法の最適化に手間取ったため、当初の予定額を使用しなかった。24年度には、モデル物質の曝露実験、GFP導入細胞の樹立実験に関する消耗品類の購入、人工多能性幹細胞とその維持に係る消耗品の購入に充てる予定である。
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