本研究は、多能性幹細胞からの器官形成を用いて中枢神経発生毒性の簡便な評価方法を確立することを目的として実施した。 最終年度となった24年度は、器官形成過程に実際に化学物質を曝露し、その影響を評価した。マウスES細胞を、大脳様構造分化誘導条件下で浮遊培養し、分化開始0日と7日にバルプロ酸1mMを添加した。それぞれ、0日、7日、14日でmRNAを回収しDNAマイクロアレイを用いて遺伝子発現の変化を調べたところ、インスリンシグナルの活性化とそれに伴うNgr-2シグナルの抑制が検出された。また14日目の大脳様構造に対し、神経幹細胞マーカーNestin、第一層マーカーReelin、第二層マーカーTbr1に対する免疫染色を施したところ、バルプロ酸曝露群ではNestinの局在に変化は見られないものの、Reelin陽性細胞の減少とTbr1のシグナルの不検出がみられ、大脳様構造の層構造形成の撹乱が生じていることが観察された。バルプロ酸はマウス、ヒトで大脳構造の異常を誘発することが知られており、本システムが中枢神経の発生毒性を検出できることが確認できた。ヒトES細胞の系に関しては研究機関の変更に伴う遅延のため、結果を得るに至らなかった。 全体として、ヒト多能性幹細胞を用いるシステム構築という当初目的は達成できなかったが、マウス多能性幹細胞のシステムから、このシステムが有望なもので有ることが立証できた。また、23年度にはヒトES細胞KhES-3から短期間で神経を分化させることにも成功し、当該細胞を用いた毒性評価に関して論文発表を行った。
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