研究概要 |
前年度の研究により、最強毒性のダイオキシンである 2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin (TCDD) の妊娠ラットへの曝露により出生雄児において視床下部ゴナドトロピン放出ホルモン (GnRH) の発現低下が固定され、成長後に性行動障害が惹起することを明らかにした。本年度は、成長後にまで固定される GnRH 低下の機構を明らかにすることを目標として検討を実施した。 エピジェネティック制御 (DNA メチル化およびヒストン修飾) に対する影響を検討するため、DNA メチル化への影響を解析した結果、TCDD は視床下部 GnRH 遺伝子上流の DNA メチル化に対しては全く影響を及ぼさなかった。種々のヒストン修飾酵素の発現変動も認められなかったことから、TCDD はエピジェネティック制御への影響以外の機構で GnRH 低下を固定すると考えられた。GnRH 産生の場である視床下部の GnRH ニューロンは、発達期において性ステロイド刺激依存的に成熟するが、TCDD 母体曝露により出生前後の児の性ステロイド合成は障害される。すなわち、TCDD は発達期の性ステロイド合成低下を介して GnRH ニューロン成熟を障害し、出生児の低 GnRH 体質を惹起する可能性も考えられる。これを検証するため、TCDD 曝露胎児に低下する性ステロイド合成刺激ホルモンを補給し出生児の GnRH 発現を検討した結果、TCDD 依存的な GnRH 低下は、胎児への補給により正常水準に回復することが明らかになった。 以上の成果から、TCDD 母体曝露は出生児の低 GnRH 体質を固定を介して性成熟を障害し、この機構には出生前後の性ステロイド合成低下を起点とする視床下部 GnRH ニューロン成熟の障害が関与する可能性が新規に見出された。
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