研究課題/領域番号 |
23790154
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研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
丹治 貴博 岩手医科大学, 薬学部, 助教 (60453320)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 栄養シグナル / 線虫 / オルガネラ / 飢餓 |
研究概要 |
幼虫後期から成虫初期の線虫腸細胞に豊富に存在するリソソーム様オルガネラは、飢餓条件下で急速に崩壊する。どの栄養因子の欠乏がオルガネラの崩壊の引き金になるのかを知るために、既知組成合成培地を用いた線虫培養系を検討した。しかしながら、確立している線虫合成培地(Lu & Goetsch (1993) Nematologica 39, 303-31 を改変、糖・アミノ酸・核酸・脂質・ビタミン・重金属などを含む)では当該オルガネラは速やかに消失した。従って、この合成培地にはオルガネラの維持に必要な栄養因子が欠如もしくは不足していると考えられた。 そこで、通常実験室で線虫に餌として与えている大腸菌を分画して、この腸細胞オルガネラの形成・維持に関わる栄養因子を同定するアプローチを試みた。その過程で、通常与えている生菌の代わりに熱処理(摂氏65度)で不活性化した大腸菌を餌として与えると、オルガネラの形成不全・崩壊が生じることが明らかとなった。更に、この崩壊も飢餓条件と同様に当該オルガネラ選択的であることを示した。紫外線照射により殺滅した大腸菌では通常通りオルガネラが形成・維持されることから、熱処理依存の現象といえる。熱処理によりオルガネラの形成・維持に必要な因子が不活性化した可能性、オルガネラの形成・維持に阻害的に働く因子が誘導された可能性が考えられる。 また、栄養環境の変化によって引き起こされる腸細胞オルガネラの動態変化に与る遺伝要因を網羅的にスクリーニングするために、当該オルガネラの崩壊を検出する系を検討した。マルチウェルプレート上で飼育した線虫を、高解像のデジタル顕微鏡を用いてスライドグラス上にマウントせずに直接観察することで、多検体を効率的にスクリーニングする系を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的である「線虫 C. elegans の腸細胞におけるオルガネラの形成・維持・崩壊を制御する栄養・飢餓シグナルの解析及び、栄養環境変化に対応したオルガネラの動態変化に関わる分子基盤の解明」を達成するために、平成23年度の研究実施計画では、「線虫腸細胞オルガネラの形成・維持・崩壊に関わる栄養因子の同定」及び「Feeding RNAi スクリーニング系の確立」を計画した。 前者に関しては、確立された線虫の既知組成合成培地の組成ではオルガネラの形成・維持に不十分であることが明らかとなった。そのため合成培地を用いた栄養因子の同定はできなかったものの、異なるアプローチで栄養因子の同定を試みる過程で、大腸菌の熱処理により変動する因子が当該オルガネラの動態変化に関与しているという大変興味深い知見が得ることができた。この知見を足がかりに、次年度以降にオルガネラの動態変化に関与する因子の同定が大きく進展すると期待される。 後者に関しては、計画通りスクリーニング系を確立できた。
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今後の研究の推進方策 |
熱処理大腸菌を餌として与えたときに腸細胞オルガネラの形成不全・崩壊が生じた原因として、熱処理によりオルガネラの形成・維持に必要な因子が不活性化した可能性、オルガネラの形成・維持に阻害的に働く因子が誘導された可能性が考えられた。どちらの可能性かを明らかにするために、熱処理大腸菌と熱処理せずに不活性化した大腸菌の混合液を餌として与えたときに、オルガネラが形成・維持されるかを解析する。形成・維持されれば前者の可能性、形成不全・崩壊が生じれば後者の可能性が考えられる。 その結果を基に、「熱処理により不活性化したオルガネラの形成・維持に必要な因子」もしくは「熱処理により誘導されたオルガネラの形成・維持に阻害的に働く因子」の同定を試みる。大腸菌の破砕液を分画し、どの画分に追求する因子があるかを調べることにより、因子を絞り込む。 更に、平成23年度に確立した feeding RNAi によるスクリーニング系を用いて、栄養状態の変化によって引き起こされる腸細胞オルガネラの動態変化に与る遺伝要因を網羅的にスクリーニングする。具体的には、オルガネラが崩壊する栄養条件においてもオルガネラの崩壊が起きないことを指標に、オルガネラの崩壊に関与する遺伝子を探索する。線虫遺伝子の多くは、これまでの報告や網羅的な解析に基づくRNAiの表現型や発現組織に関する情報が、線虫データベースWormBaseに公開されている。従って、終齢幼虫・成虫の腸細胞での発現が報告されている因子、情報伝達因子と予想される因子(特に栄養シグナルや飢餓応答への関与が知られているインスリン様シグナル伝達経路や TOR (target of rapamycin) 経路の因子)から優先的に解析していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
「線虫腸細胞オルガネラの形成・維持・崩壊に関わる栄養因子の同定」において、当初の計画とは異なるアプローチをとることとなったため、必要な消耗品が変更となった。次年度の研究推進方策で、当初の予定にはなかった大腸菌の分画等の生化学的な解析を行うため、平成23年度未使用の助成金から必要な消耗品を購入したい。また、線虫の取り扱いに必要な実体顕微鏡を購入する予定である。消耗品の他には、スクリーニング等における実験補助に対する謝金、成果発表のための学会参加(線虫国際学会(米国ウィスコンシン州)及び国内学会)の旅費を申請する。
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