研究課題/領域番号 |
23790154
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研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
丹治 貴博 岩手医科大学, 薬学部, 助教 (60453320)
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キーワード | 栄養シグナル / オルガネラ / 線虫 / 飢餓 |
研究概要 |
線虫(C. elegans)の腸細胞には複数種類の顆粒状のオルガネラ(以下、腸内顆粒)が豊富に存在する。腸内顆粒のうち成虫初期に最も豊富に存在するリソソーム様オルガネラは、餌(生きた大腸菌)のない培地で飼育すると崩壊する。この崩壊が飢餓によるものなのか、それとも餌を感知できないことに伴う神経支配によるものかを明らかにするために、咽頭筋特異的に発現するニコチン受容体の変異により摂食障害の表現型を示す変異体 eat-2(ad1116) を用いて解析した。この変異体では餌の存在下でもオルガネラが選択的に減少していたことから、飢餓が原因でオルガネラ崩壊が生じることが示された。 この崩壊は、生菌の代わりに熱処理大腸菌を与えた時にも生じる(前年度研究業績)。そのメカニズムを解明するために、熱処理大腸菌と大腸菌破砕液(単独給餌では腸内顆粒は維持)の混合液を与えた結果、腸内顆粒が維持されたことから、熱処理により不活性化する因子がオルガネラの形成・維持に必要であると考えられた。更にその因子を同定するために大腸菌破砕液の分画を進め、その因子が不溶性画分にあることを突き止めた。 また、前年度に確立した腸内顆粒の形成・崩壊の検出系を用いて、腸内顆粒の動態変化に与る遺伝要因の feeding RNAi(線虫遺伝子に対応した二本鎖RNAを発現する大腸菌を餌とすることで、特定遺伝子の発現を抑制する方法)による網羅的なスクリーニングを進めた。腸内顆粒の形成・維持に関わる因子に加えて、その崩壊に関わる因子、形成・維持に阻害的に働く因子を同定する系を検討した。変異体 eat-18(ad820) を用いると、feeding RNAi に用いる大腸菌系統を餌とした時に腸内顆粒が減少すること、摂食障害にも関わらずRNAiが効果的であることが判明した。この変異体を用いたスクリーニングにより、複数の候補遺伝子を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的である「線虫C. elegans の腸細胞におけるオルガネラの形成・維持・崩壊を制御する栄養・飢餓シグナルの解析及び、栄養環境変化に対応したオルガネラの動態変化に関わる分子基盤の解明」を達成するために、本年度の研究実施計画では、前年度の業績を基に「線虫腸内顆粒の形成・維持・崩壊に関わる栄養因子の同定」及び「腸内顆粒の形成・維持に関わる遺伝要因の feeding RNAi によるスクリーニング」を計画し、前者に関して極性溶媒に不溶性の因子であるという新たな知見が得られ、後者に関してもスクリーニングを網羅的に進めることにより多くの候補遺伝子がこれまでに見いだされていることから、いずれもおおむね順調に進展している。 更に本年度は「腸内顆粒の崩壊に関わる遺伝要因のスクリーニング系」を新たに樹立した。この系を用いたスクリーニングを次年度押し進めることにより、飢餓刺激により引き起こされる腸内顆粒崩壊に関わる分子基盤の解明が大きく進展すると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
「線虫腸内顆粒の形成・維持・崩壊に関わる栄養因子の同定」のために、その栄養因子が存在する不溶性画分から種々の有機溶媒を用いた可溶化を試みる。どの有機溶媒で可溶化されるか、また有機溶媒で不活性化するか否かを解析し、栄養因子の化学的性質から同定に向けてアプローチする。 また、本年度までに樹立した系を用いて「腸内顆粒の動態変化に与る遺伝要因のfeeding RNAi による網羅的なスクリーニング」を進める。その過程で得られた候補遺伝子から、gene ontology 解析により腸内顆粒の動態変化に与る経路を絞りこんでいく。その経路の因子の変異体及び各種オルガネラマーカーを用いて、どのオルガネラがどのようなシグナル伝達経路により動態制御を受けているのかを明らかにする。 本年度に feeding RNAi によるスクリーニングとは別に進めた変異体を用いた実験で、インスリンシグナル経路の因子が腸内顆粒の形成にネガティブに働くという予備的知見を得たことから、このシグナル経路が飢餓刺激時の腸内顆粒崩壊に関わる可能性が考えられた。各種オルガネラマーカーを用いて、どのオルガネラの形成に関与しているのか、また飢餓刺激に対するインスリンシグナル経路の応答を解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は本研究課題の最終年度にあたり、研究をまとめるために feeding RNAi による網羅的なスクリーニングを更に加速させることが不可欠である。そのために、本年度未使用の助成金も併せて、実験補助に対する謝金への配分を増やしたい。本年度までの研究で必要な実験技術を修得済みの実験補助員に、継続して本研究に携わっていただく時間・期間を大幅に増やすことで、研究の更なる進展が期待される。 他には、スクリーニングや栄養因子の同定に必要な試薬・消耗品、候補遺伝子を詳細に解析するために用いる線虫変異体の取り寄せ等に研究費を使用する計画である。特に、スクリーニングの加速に伴い大量のシャーレやプレートが必要である。また、成果発表のために国内学会への参加費・旅費を申請する。
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