研究概要 |
線虫(C. elegans)の腸細胞には複数種の顆粒状オルガネラ(腸内顆粒)が存在する。成虫初期に最も豊富に存在し、ABC輸送体であるHAF-4及びHAF-9が膜上に局在する腸内顆粒(HEBE顆粒)は、餌(生きた大腸菌)のない培地で飼育すると崩壊する。HEBE顆粒とは異なる腸内顆粒である脂質貯蔵顆粒では12時間以上経過してから縮小・減少するのに対して、HEBE顆粒は飢餓2時間以内に崩壊することからより素早い飢餓応答を示すことが明らかとなった。更に、HEBE顆粒の飢餓応答は、酸性オルガネラの形成不全を示す変異体でも認められることから、オートファジーやリソソームに依存しない未知の機構によりHEBE顆粒が分解していると考えられた。 また、HEBE顆粒の飢餓応答に、栄養シグナル伝達経路であるインスリン/インスリン様成長因子シグナル(IIS)が関与しているか解析した。インスリン受容体の変異体では、餌のある培地上でもIISが伝達されないことから、HEBE顆粒の維持にIISが関与しているならばHEBE顆粒が恒常的に減少する可能性が考えられたが、変異による影響は認められなかった。その一方で、IISに拮抗的に働くPTENや、IISにより負に制御されるFOXO転写因子の変異体において、HEBE顆粒が多重の膜構造を有すると思われる異常な形態を示すことが明らかになった。これらの変異体では富栄養状態における生理状態を反映していると考えられ、HEBE顆粒が、飢餓のみならず様々な栄養環境に応じてダイナミックに変動するオルガネラであることが示唆された。 更に、前年度までに確立したfeeding RNAi(線虫遺伝子に対応した二本鎖RNAを発現する大腸菌を餌とすることで、特定遺伝子の発現を抑制する方法)によるスクリーニング系を用いて、腸内顆粒の形成・維持・崩壊に与る遺伝要因の探索を進めた。約12,000クローンからなるRNAiライブラリーのうち、4分の1以上のスクリーニングを実施し、複数の候補遺伝子を得た。
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