研究課題
H. pyloriの抗酸化能力である鉄イオン共役型Superoxide Dismutase(SodB)は胃粘膜上皮への持続感染の樹立に必須な遺伝子であり、さらに、SodBの強発現はメトロニダゾール耐性化をもたらすことを研究代表者らは明らかとしてきた。本研究課題では、H. pyloriの持続感染能の喪失と同時に、メトロニダゾール耐性解除をもたらす新規除菌治療戦略の基盤構築を目的に、鉄トランスポーターのSodB発現機序への関与に注目して、H. pyloriの抗酸化能発現システムを明確化することを目的とした。SodB強発現によるメトロニダゾール耐性H. pyloriは鉄トランスポーターFecA1発現も亢進しており、fecA1遺伝子を欠損させると、SodB活性が低下すると共に、メトロニダゾール耐性は解除された。さらに、fecA1遺伝子は転写制御因子Furにより転写制御されるが、SodB強発現メトロニダゾール耐性H. pyloriが保持する変異型Fur(Tsugawa et al., Antioxid. Redox Signal. 14:15-23, 2011)によって、fecA1発現が亢進状態にある事をBiacore解析により明確にした。また、fecA1遺伝子欠損H. pyloriは、SodB活性の低下に伴い、胃粘膜上皮への感染能力が低下することをスナネズミに対する感染実験で明確にした。以上の結果は、鉄トランスポーターFecA1は、SodB活性発現に寄与し、胃粘膜上皮への持続感染に必須な遺伝子であり、さらに、FecA1発現亢進はメトロニダゾール耐性化にも寄与する事を意味しており、新規除菌治療戦略の構築に向けたターゲット分子としての可能性を提示している。以上の成果は、Free Radical Biology & Medicine誌に発表した。
2: おおむね順調に進展している
H. pyloriの抗酸化能力である鉄イオン共役型Superoxide Dismutase(SodB)の機能維持には、外界鉄イオン取り込みトランスポーターであるFecA1が必須であることを明確にすることが出来た。さらに、遺伝子欠損菌株の構築及び利用によって、FecA1が、メトロニダゾール耐性化に寄与するのみならず、胃粘膜上皮への持続感染の成立にも寄与する事をスナネズミを用いた感染実験で明確にできた。以上の成果から、本研究課題の主たる目的である、「H. pyloriの持続感染能の喪失とメトロニダゾール耐性解除をもたらす新規除菌治療戦略の基盤構築」に対する達成度は順調に進展していると思われる。
● 酸化ストレス応答性リン酸化修飾分子の同定研究代表者らは、H. pyloriには、2種の新規酸化ストレス応答性リン酸化修飾分子(60-X、65-Y)が存在する事を明らかとしており、H. pyloriの全ゲノム情報を基に、MASS解析からこれら分子を同定する。同定したこれら分子の機能として、H. pyloriの抗酸化能発現への関与及び持続感染の樹立に対する関与を明確にし、また、メトロニダゾール耐性化への関与についても評価する。● FecA1機能阻害分子についてSodB機能維持に寄与することで持続感染の樹立に必須である事が明らかとなったFecA1分子に対して、機能阻害活性を示す低分子化合物の探索及び同定を行う。さらに、同定したFecA1機能阻害化合物のFecA1結合活性及び、SodB活性に対する阻害活性を検討した後、H. pyloriの除菌効果についてスナネズミを用いた感染実験により評価する。
主に、研究を実施する上での試薬類及びピペットや培養用プレート等の消耗品の購入に対して経費を使用し、また、動物実験を行う際のスナネズミ購入費及び飼育費に対しても使用する。また、成果発表として国内学会(日本酸化ストレス学会、日本ヘリコバクター学会、日本細菌学会)及び国際学会(アメリカ消化器病学会)の旅費に使用する。
すべて 2012 2011 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (6件) 備考 (1件)
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http://www.keio-med.jp/gastro/ugt/index.html