研究概要 |
【研究目的】神経成長因子の受容体であるc-RETチロシンキナーゼは神経の成長や維持を制御する事、ヒルシュスプラング病を最も高頻度に発症する原因遺伝子として報告されている。我々はc-RETの点変異は先天性の感音性難聴が誘発される事をヒトレベルの解析で突き止め、更に、c-Ret-ホモ型ノックイン(Y1062F/Y1062F)マウス [c-Ret-KI (YF/YF)マウス]を用いた解析により、c-Ret分子機能(リン酸化レベル)が重度に低下すると先天性の感音性難聴を誘発することを明らかにしてきた(Ohgami et al., PNAS 2010)。一方、Ret分子機能が"軽度に"低下したc-Ret-ヘテロ型ノックイン(Y1062F/+)マウス [c-Ret-KI (YF/+)マウス] は、先天性のHSCR病の表現型を示さない事が報告されているが、内耳のc-Ret活性は部分的に低下している可能性がある為、c-Ret-KI (YF/+)マウスも何らかの聴力異常を伴うのではないか、との仮説を立てた。そこで本研究では、c-Ret-KI (YF/+)マウスの聴力レベルの推移を測定し、c-Retの活性レベルと加齢性難聴の関連を解析した。【研究成果】c-Ret-KI (YF/+)マウスを用い、c-Ret分子機能の部分的低下が加齢性の感音性難聴を誘発すること、逆にその機能を遺伝子改変技術により増強すると加齢性の難聴を軽減できる事が分かった(Ohgami et al., Neurobiol Aging 2011)。【意義】c-Retが聴力制御遺伝子である事を示す本研究成果は、環境ストレスと関連する難聴の予知・予防法の開発、およびc-RETを標的とした分子治療法に道を開くものであると期待される。
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