研究課題
【研究目的】研究代表者は、環境ストレスが聴力レベルに深刻な影響を与える研究成果、及びヒト・マウスレベルで神経成長因子の受容体であるRetキナーゼが新規の先天性難聴遺伝子である事を示してきた。一方、Ret分子機能が“軽度に”低下したc-Ret-ヘテロノックインマウス [c-Ret-KI(YF/+)マウス] は、先天性巨大結腸症(ヒルシュスプラング病)の表現型を示さない事が報告されているが(Jijiwa et al., MCB 2006)、内耳のc-Ret活性は部分的に低下している可能性がある為、c-Ret-KI(YF/+)マウスも何らかの聴力異常を伴うのではないか、との仮説を立てた。そこで本研究では、c-Ret-KI(YF/+)マウスの聴力レベルを経時的に測定し、c-Retの活性レベルと加齢に伴う聴力の推移を解析した。【研究成果】c-Ret-KI(YF/+)マウスの聴力レベルの推移を測定した所、生後1ヶ月齢時には4-40 kHzの音域にわたって野生型マウスと同程度のレベルを示したが、その後4ヶ月齢、10ヶ月齢になると、野生型マウスの聴力低下よりも症状が早く進行し、加齢性難聴の表現型を呈することがわかった。また、内耳の形態解析を実施した所、聴神経の変性を伴うことがわかった。以上の結果より、c-Ret分子機能の部分的低下が加齢性の感音性難聴を誘発する事が示唆された。更に、Retの機能を遺伝子改変技術により増強すると加齢性難聴の症状を軽減できる事が分かった。【意義】c-Retが聴力制御遺伝子である事を示す本研究成果は、加齢性難聴の予知・予防法の開発、およびc-RETを標的とした分子治療法に道を開くものであると期待される。今後は騒音などの環境ストレスとの関連を解析する予定である。
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