本研究課題では、亜鉛に応答した遺伝子発現について、エピジェネティックな制御機構の存在を明示するとともに、その機序を解明することを目的とした。エピジェネティックな影響を与える環境要因・条件を見出すため、エピジェネティックに定常的なメタロチオネイン-I (MT-I)遺伝子発現が抑制され、なおかつ、亜鉛によるMT-I誘導が認められないリンパ肉腫細胞株P1798細胞を用いた解析を行った。その結果、1月間の亜鉛処理ではMT-I誘導能を変化しなかったが、1週間のカドミウム処理がMT-I発現を増加する傾向が観察された。これは、環境要因によってMT発現がエピジェネティックな影響を受けてその発現が変化する可能性を示すものである。次に、亜鉛処理に応答して遺伝子プロモーターのクロマチン構造が変化するという現象が重金属応答性転写因子MTF-1によって発現制御を受けている遺伝子に共通の現象なのかを明らかにするための解析を行った。その結果、解析を行った遺伝子プロモーター全てで亜鉛に応答したクロマチン構造変化が観察され、本現象がMTF-1支配遺伝子に共通したものであることを示唆した。更に、この現象に関与する因子を明らかにするため、クロマチンリモデリングファクター、Brg1およびBrmのノックダウンを行い、mRNAレベルで20%以下に減少させたところ、MT-I遺伝子発現に影響は認められなかった。これら因子を欠失している細胞株SW13細胞に、これらを強制発現した解析においても、これらリモデリングファクターは亜鉛に応答した発現誘導には影響を与えないことが明らかとなった。以上の通り、本研究課題により亜鉛に応答して遺伝子プロモーターの構造が変化するという現象は、MTF-1支配遺伝子に共通であり、これに関わる因子はBrg1やBrm以外の因子であることを明らかにすることができた。
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