研究課題/領域番号 |
23790164
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研究機関 | 神戸薬科大学 |
研究代表者 |
水谷 暢明 神戸薬科大学, 薬学部, 講師 (90340447)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 金属酸化物ナノ粒子 / 酸化亜鉛 / アレルギー / 喘息 |
研究概要 |
本研究の目的は、金属酸化物ナノ粒子曝露のアレルギー性気管支喘息に与える影響について、マウス実験的アレルギー性気管支喘息モデルを用いたin vivo実験により明らかにすることである。金属酸化物ナノ粒子は、個々によって細胞毒性が異なる可能性があることから、平成23年度はアレルギー性気管支喘息の発症に影響を及ぼし得る金属酸化物ナノ粒子について明らかとすることを目標とした。 感作は、BALB/c系マウスに抗原としてovalbumin (OVA)を用いて50 ug/30 uL/mouseでday 0、1、2、14、15および16に鼻腔から肺へ投与することにより行い、抗原惹起は、day 28、29、30、および35にOVA(200 ug/20 uL/mouse)を繰り返し直接気管内へ投与した。また、金属酸化物ナノ粒子として酸化亜鉛は、20 ug/mouseで、抗原による感作前1週間より1週間に3回気管内に繰り返し投与した。感作時は抗原と酸化亜鉛を混合したものを投与し、惹起時は抗原投与前30 minに行った。その結果、day 35において明らかな二相性の気道抵抗の上昇が、OVA単独投与もしくは酸化亜鉛単独投与群と比較して認められた。また、気管支肺胞洗浄液中への炎症細胞浸潤ではアレルギー性疾患発症において重要であると考えられている好酸球浸潤が認められ、さらには血中に抗原特異的IgG1およびIgEの上昇が観察された。 これらの結果より、酸化亜鉛ナノ粒子はアレルギー性気管支喘息を増悪化させる金属酸化物ナノ粒子である可能性が示唆された。今後、酸化亜鉛を中心に、a)感作成立時期もしくは症状発症時の酸化亜鉛曝露が喘息症状に与える影響、ならびにb)喘息症状増悪化のメカニズムについて解析する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度は、アレルギー性気管支喘息の発症に影響を及ぼし得る金属酸化物ナノ粒子について明らかにすることであった。金属酸化物ナノ粒子である酸化亜鉛を感作成立前からの長期曝露することにより、明らかな二相性の気道抵抗の上昇、気管支肺胞洗浄液中への炎症細胞浸潤、ならびに血中の抗原特異的IgG1およびIgEの上昇を引き起こすことを明らかとした。この結果は、酸化亜鉛が喘息症状の増悪化を引き起こす重要な金属酸化物ナノ粒子である可能性を見出したことを示しており、平成23年度の目標はおおむね達成されたと考えられる。しかしながら、特徴的な喘息症状である気道リモデリング(杯細胞の過形成および肺線維化)の発症についての病理標本を用いた解析、気管支肺胞洗浄液中のサイトカイン(IL-4、IL-5およびIL-13)の産生上昇、ならびに肺組織中のIL-1β、C3a受容体発現の上昇などが認められるか否かについてはまだ検討されておらず、平成24年度における課題として引き続き行う必要がある。 平成23年度は、酸化亜鉛がアレルギー性気管支喘息症状である特に二相性の気道抵抗の上昇ならびに肺胞洗浄液中への炎症細胞浸潤の増悪化を引き起こす物質であることを見出した。この結果より、平成24年度への実験の計画は大きく変更する必要はなく、酸化亜鉛が喘息発症の感作成立時期ならびに症状発現時期にどのような役割を果たすかを中心に検討する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度の実験結果より、酸化亜鉛ナノ粒子の感作成立前からの長期曝露は、アレルギー性気管支喘息の二相性の気道抵抗の上昇、好酸球などの炎症性細胞浸潤、ならびに抗原特異的IgG1およびIgEの産生を引き起こすことを明らかとしてきた。しかしながら、気道リモデリング、サイトカインの産生についての検討は行われておらず、平成24年度に行う予定である。さらに、平成24年度は以下の2つの検討項目を中心に解析する。1)感作成立時もしくは症状発症時における酸化亜鉛ナノ粒子曝露の喘息症状に与える影響:酸化亜鉛を感作時もしくは抗原惹起時のみに気管内投与し、平成23年度と同様に二相性喘息反応の増悪化が認められるか否かを観察する。その後、気道過敏性および気道リモデリングについても検討するとともに、抗体価、炎症細胞浸潤、サイトカイン産生などの検討を行う。また、症状発症に関与しているC3a受容体、IL-1β、IL-33などの肺における発現の程度を免疫染色で確認する。2)喘息症状増悪化のメカニズム解析:a) 感作時の酸化亜鉛ナノ粒子曝露による症状増悪化:感作時の酸化亜鉛ナノ粒子曝露が喘息症状を増悪化した場合、ナノ粒子のアジュバント作用による可能性が高いため、感作時の酸化亜鉛ナノ粒子曝露動物の肺組織中の細胞、もしくはリンパ節および脾臓から分離したT細胞を用いて抗原とCO2存在下、37℃で一定時間培養し、産生・分泌されるTh1、Th2サイトカインなどをELISA、もしくは細胞内におけるそれらの発現をフローサイトメトリーで同定する。b)症状発症時の酸化亜鉛ナノ粒子曝露による症状増悪化:抗原特異的IgE mAbにより喘息症状を誘導したモデルに酸化亜鉛曝露を行い、遅発性反応が増悪化されるか、また本反応に関与しているIL-17、IL-1β、C3aなどの増強が認められるか否かについて解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度も平成23年度と同様に、マウスを用いたin vivo実験を中心とするため、それに必要な消耗品や試薬を購入する予定である。また、以下に具体的な実験内容と必要と考えられる試薬などを記載した。・気道リモデリングについて評価を行うため、酸化亜鉛投与マウスの肺の病理標本の作製を行い、肺の炎症(H&E染色)、杯細胞の過形成(PAS染色)および肺線維化(Masson trichrome染色)を観察する予定である。そのため、病理法本作製に必要な消耗品や染色液などの試薬を購入する必要がある。また、C3a受容体、IL-1β、TGF-β、IL-33などの免疫化学染色を行うため、種々抗体なども購入する必要がある。・血中抗原特異的抗体の産生上昇を確認するため、ELISAプレートや種々抗体などを、また気管支肺胞洗浄液中のサイトカインの産生の解析ではELISAキットを購入して測定する。・病態メカニズム解析では、肺細胞もしくは脾臓細胞を用いたin vitro実験(細胞培養)を行う。さらには、抗原特異的IgE mAb(OE-1)産生ハイブリドーマの培養によりIgE mAbの作製を行い、喘息動物モデルを誘導する。そこで、細胞培養を行う上で必要な消耗品や試薬を購入する予定である。また、フローサイトメトリーにより細胞内サイトカインの同定を行う際に、蛍光標識した種々抗体などが必要となるためこれらについても購入する予定である。
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