研究課題/領域番号 |
23790165
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研究機関 | 広島国際大学 |
研究代表者 |
前田 志津子 広島国際大学, 薬学部, 助教 (80435065)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 粉じん / 散剤調剤 / 錠剤粉砕 / 大気汚染 / 医薬品汚染 / 健康影響 / 職業被ばく / ハイリスク薬 |
研究概要 |
今年度は「実験室での医薬品の大気中飛散モデル実験」及び、「調剤室、医療施設内での医薬品汚染調査」について実施したので報告する。錠剤粉砕によりどの程度粉じんが発生しているかについて、安価で定量しやすいノイロビタン配合錠とロキソニン錠60mgを用いてモデル実験を行った。各々21錠ずつを錠剤粉砕器(高園産業株式会社)にて粉砕し、発生した粉じんの大気中濃度(相対濃度)をデジタル粉じん計(柴田科学株式会社)を用いて測定した。この粉砕操作は各6回ずつ行った。その結果、粉じん濃度は医薬品粉砕後に錠剤粉砕器のフタを開封した約15~45秒後に最高となった。並行して、発生した粉じんを1操作ごとにエアサンプラー(柴田科学株式会社)にてフィルターに捕集した。粉じん中の医薬品成分をHPLCで定量し、その成分量を錠剤の重量に換算すると、ノイロビタン配合錠は平均0.049g、ロキソニン錠60mgは平均0.094gであった。錠剤粉砕による大気中の粉じん濃度上昇が確認できたので、実際の作業環境の汚染調査として、保険薬局での粉じん濃度測定を実施した。散剤調剤時や錠剤粉砕時、モデル実験ほど顕著ではなかったものの、粉じん濃度の上昇が確認された。次に、空気清浄機使用の有無による粉じん濃度の違いを調査した。その結果、空気清浄機を使用した場合は使用しない場合に比べ、粉じん濃度が有意に減少していた(p=0.023)。実際に、薬局に常設されている空気清浄機を調査したところ、フィルターには医薬品粉じんや埃等が多く吸着しており、その重量は月平均10g以上増加していた。以上より、散剤調剤時や錠剤粉砕時には医薬品粉じんが大気中に飛散していることが判明した。測定機器及び空気清浄機はいずれも散剤調剤に用いる電子天秤近くに設置していることから、作業者はこれらの機器と同程度の医薬品曝露を受けている可能性があると示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「医療関係者に対する医薬品被曝意識調査」に関して、今年度は学会及び現場の薬剤師からの情報収集を中心に行った。来年度はアンケートの内容精査を迅速に行い、アンケート調査を進めていきたい。また、「調剤室、医療施設内での医薬品汚染調査」については、これまで保険薬局を中心に調査を進めてきた。今後は、採用医薬品が多くハイリスク薬の取り扱いも多い病院についても調査を行う予定である。協力予定の病院とは学生実習等で以前より親交があり、すでに承諾を得ている。以上の進捗状況を踏まえ、今年度はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
調剤時における大気中の医薬品汚染の実態についてはある程度明らかになったので、今後は人体への医薬品被曝の実態についても調査を開始する。第一段階として、大気中に飛散した医薬品粉じんを吸入することによって、その成分が唾液中に検出されるかについて検討する。散剤調剤や錠剤粉砕後に口の中が苦くなることがあるのは、調剤経験者なら誰もが少なからず経験していることである。尿中・血中濃度よりも高い確率で、医薬品の同定と定量ができると考えられる。まずはモデル実験として、医薬品粉砕後の作業者の唾液もしくはうがい液を回収して分離・分析を行う。唾液中の定量法が確立しているガスロンN錠を用いて測定を行い、大気中粉じん濃度と唾液中の医薬品濃度の関係について検討を行う。これと並行して、薬剤師をはじめとする医療関係者に「作業環境に関するアンケート調査」を依頼し、医薬品汚染の現状、懸念など、医療現場での実態や意見を収集する予定である。アンケート調査に関しては、個人情報に留意し氏名等は採取しないこととする。
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次年度の研究費の使用計画 |
より効率よく医薬品定量を行うために、HPLC関連物品や測定キットを充実させる予定である。また、粉じんの粒子径の違いによる飛散状況を確認するため、パーティクルカウンターを購入したいと考えている。しかしながら、散剤調剤や錠剤粉砕において発生する粉じんのうち粒子径が10ミクロン以上のものについては、粉じん計やパーティクルカウンターでは計測できない。両機器では計測できない粉じんについては、10ミクロン以上の粉じんを可視化できるライトを用いて、大気中での浮遊状態及び調剤台や床面・壁面への付着状態を観察することとする。
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