研究課題
鉄(イオン)は生命維持に必須の元素であるが、好気環境下や宿主内には細菌が自由に利用できる遊離鉄は極めて少ない。細菌はこのような鉄制限下で増殖するための手段としてシデロフォア(三価鉄キレート分子)を介する鉄獲得機構を有している。病原細菌が鉄制限下である宿主内で増殖・定着することは感染成立の条件であるため、シデロフォアを介する効率的な鉄獲得系は病原因子の1つである。食中毒原因菌である腸炎ビブリオは鉄制限ストレス下においてシデロフォアであるvibrioferrinを産生し、必須元素である鉄を効率的に獲得している。本研究ではビブリオ属菌シデロフォアの産生調節機構を解明するとともに、その調節機構に関わる遺伝子の欠失株において病原性がどのように変化するのかを検討している。本年度は腸炎ビブリオの産生するvibrioferrinがsmall RNAであるRyhBにより産生増大されていることがわかった。また、vibrioferrinの産生増大はvibrioferrin生合成オペロン(pvsO)mRNAの5’非翻訳領域にRyhBが直接作用し、その結果pvsO mRNAが安定化したために起きたことが示唆された。現在はpvsO mRNAの安定化に必要なRyhB結合部位の同定を目指すとともに、vibrioferrin産生抑制株であるryhB欠失株の感染による細胞毒性が野生株感染時と比較してどのように変化するのかをヒト腸管上皮細胞を用いて検討している。また、vibrioferrinの生理作用について検討するため、腸炎ビブリオ培養上清よりvibrioferrinの単離・精製も行った。この精製品をヒト腸管上皮細胞へ作用させ炎症性サイトカインの発現量の変化等を現在検討している。
2: おおむね順調に進展している
・交付申請書に記載した平成23年度研究実施計画に従い、腸炎ビブリオの産生するシデロフォアであるvibrioferrinの分取・精製は完了し、現在vibrioferrin精製品をヒト腸管上皮細胞株の培養液に添加し、炎症性サイトカイン等の発現量の変化を調べている。また、平成23年度研究実施計画であったシデロフォア生合成遺伝子欠失株の構築は腸炎ビブリオ株において完了し、さらにシデロフォア産生抑制株であるryhB欠失株も構築済みである。・平成23年度研究実施計画では腸炎ビブリオのsmall RNA RyhBによるvibrioferrinの産生調節機構の検討についても記載した。本研究ではRyhBがvibrioferrin生合成オペロンのmRNAに作用し安定化させることによりvibrioferrin産生を増大していることを見出した。このRyhBによるシデロフォア産生増大のメカニズムは初めて見出された例であり、大変興味深く、今後発展が期待できる。
ビブリオ属細菌が産生するシデロフォアが宿主細胞にどのような影響を与えているかはこれまでほとんど判っていない。今後は腸炎ビブリオが産生するシデロフォアであるvibrioferrinの宿主細胞に与える影響について、特に炎症反応に与える影響を中心に検討していく。また、既に構築している病原ビブリオのシデロフォア産生抑制株を用いてヒト腸管上皮細胞株に対する感染実験を行い、親株感染時における炎症応答と比較し検討する。
現在、平成23年度実験計画の病原ビブリオシデロフォアの細胞添加実験を継続中である。次年度使用額として800千円程度あるが、これには平成23年度実験計画の病原ビブリオシデロフォアの細胞添加実験で使用する"ELISAキット"、"細胞培養関連試薬"、"RNA関連試薬"の未購入分が含まれている。次年度は上記の平成23年度未購入分消耗品とともに次年度購入予定消耗品(分子生物関連試薬、細胞培養関連試薬、ウエスタンブロット用試薬等)に研究費を使用する。また、研究成果発表(横浜、3日間)のための国内旅費、および論文投稿料としてそれぞれ100千円程度を研究費から使用する予定である。
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