研究課題/領域番号 |
23790171
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
高橋 勉 東北大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (00400474)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 癌 / 遺伝子 |
研究概要 |
がん化学治療におけるテーラーメイド治療を実現させるためには、個々の制がん剤に対する感受性を規定する細胞内因子の全容解明が不可欠である。本申請者は、出芽酵母を用いた制がん剤感受性決定因子の高精度のスクリーニング方法を確立し、そのスクリーニング法によってアントラサイクリン系制がん剤のアドリアマイシンに対する感受性決定に関わる細胞内因子として細胞内小胞輸送経路に関わる因子を同定することに成功している。また、同定された因子はアドリアマイシン以外の複数の制がん剤の毒性の軽減にも関与していることも明らかにしている。しかしながら、細胞内小胞輸送経路と制がん剤感受性との関係について検討した報告はほとんどない。そこで本研究では、細胞内小胞輸送経路による制がん剤感受性決定機構の解明を目指す。 アドリアマイシン毒性軽減機構に関わる細胞内小胞輸送経路を明らかにするため、各経路に関わる因子とアドリアマイシン感受性との関係を調べたところ、小胞体からゴルジ体への小胞輸送経路(COPII小胞輸送経路)の抑制によって酵母のアドリアマイシン感受性が亢進することが明らかとなった。COPII小胞輸送経路によって運ばれる蛋白質(カーゴ蛋白質)は特定のカーゴレセプターによって認識されている。そこで、アドリアマイシン毒性軽減機構に関わり、COPII小胞輸送経路によって運ばれる蛋白質(X蛋白質)を明らかにするため、これまでに知られている9種のカーゴレセプターとアドリアマイシン感受性との関係を調べた。その結果、アドリアマイシン感受性決定に関わるカーゴレセプターとしてErv14が同定され、さらにErv14がCOPII小胞輸送経路を介してアドリアマイシン毒性を軽減している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では細胞内小胞輸送経路による制がん剤感受性決定機構の解明するため、以下の事項を明らかにすることを目的としている。(1)複数の経路が存在する細胞内小胞経路のうち、制がん剤感受性決定機構に関わる経路を明らかにする。(2)(1)で同定された経路によって運ばれ、かつ制がん剤感受性決定機構に関与する蛋白質(X蛋白質)を検索・同定する。 平成23年度の検討によって、COPII小胞輸送経路 (小胞体からゴルジ体への小胞輸送経路)がアドリアマイシン毒性軽減において重要な役割を果たしていることを明らかにした。以上の結果から、COPII小胞輸送経路によって運ばれる蛋白質(カーゴ蛋白質)の中にアドリアマイシン毒性軽減に関わる蛋白質(X蛋白質)が存在することが予想された。本研究では、X蛋白質を同定するために、カーゴ蛋白質の選別に関わるカーゴレセプターに着目し、さらに詳細に解析を行った。その結果、アドリアマイシン感受性決定に関わるカーゴレセプターとしてErv14が同定された。また、Erv14はCOPII小胞輸送経路を介したアドリアマイシン毒性軽減機構に関与していることも確認された。 上述したように、平成23年度に行った検討によって研究目標(1)については既に明らかにしている。また、研究目標(2)についてもX蛋白質の特定に必要な基礎的知見を得られている。したがって、本研究は予定通り遂行されており、細胞内小胞輸送経路によるアドリアマイシン感受性決定機構の全容解明に繋がる重要な知見を得られている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの検討によって、COPII小胞輸送経路がアドリアマイシン毒性軽減において重要な役割を果たしていることを明らかにしており、COPII小胞輸送経路によって運ばれる蛋白質(カーゴ蛋白質)の中にアドリアマイシン毒性軽減に関わる蛋白質(X蛋白質)が存在している可能性が考えられる。本研究では、X蛋白質を同定するために、カーゴ蛋白質の選別に関わるカーゴレセプターに着目し検討を行い、アドリアマイシン感受性決定に関わるカーゴレセプターとしてErv14を同定している。平成24年度は、カーゴレセプターErv14に結合する蛋白質を検索し、同定されたErv14結合蛋白質の中からアドリアマイシン感受性決定に関与している蛋白質を明らかにする。また、予備的検討により、COPII小胞輸送経路がアドリアマイシン以外の制がん剤の毒性軽減においても重要な役割を果たしていることを明らかにしている。今後、アドリアマイシン以外の複数の制がん剤に関しても同様の検討(個々の制がん剤感受性決定に関わるカーゴレセプターおよびカーゴ蛋白質の同定)を行い、その作用機構の解明を目指す。これまでカーゴレセプター分子種の基質特異性に関する報告はほとんどされていないことから、本研究は個々の制がん剤に対する細胞の感受性を規定している細胞内因子の解明に大きく貢献出するのみならず、カーゴレセプターの基質特異性の解明にも繋がる可能性がある。また、近年、小胞輸送経路の異常や小胞体-ゴルジ体間輸送経路の亢進が、がん細胞の悪性化に密接に関していることが報告され、細胞内小胞輸送経路ががん治療の標的として注目されていることから、本申請研究によって得られる知見が、新たな化学療法の開発にも貢献出来ると考えられる。
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次年度の研究費の使用計画 |
(1)出芽酵母を用いた制がん剤感受性決定に関わるカーゴレセプターおよびカーゴ蛋白質の特定およびその作用機構解析平成23年度の検討により、アドリアマイシン感受性決定に関わるカーゴレセプターとしてErv14を同定している。そこで、以下の検討を行い、個々の制がん剤感受性決定に関わる特有のカーゴレセプターおよびカーゴ蛋白質を特定する。(1)カーゴレセプターと制がん剤感受性との関係を明らかにするため、それぞれのカーゴレセプターを欠損させた酵母の制がん剤(5種)に対する感受性を検討し、それぞれの制がん剤感受性決定に関わるカーゴレセプターを同定する。(2)(1)で同定されたカーゴレセプターに結合する蛋白質をyeast two hybrid法により検索する。得られた結合蛋白質がカーゴレセプターによって輸送されるか否かを検討し、カーゴ蛋白質を同定する。(3)(2)で同定されたカーゴ蛋白質と制がん剤感受性との関係を検討し、個々の制がん剤感受性を規定しているカーゴ蛋白質(X蛋白質)を同定する。(4)生化学的および分子生物学的手法を用いて、制がん剤感受性決定機構に関わる同蛋白質の機能を解析する。(2)エンドサイトーシスの抑制によるアドリアマイシン耐性獲得機構の解析これまでの検討により、エンドサイトーシスの抑制がアドリアマイシンの毒性を軽減することを見出している。そこで、以下の検討を行い、(1)で同定された蛋白質と制がん剤感受性との関係を明らかにする。(1)エンドサイトーシス経路の抑制が(1)で同定されたカーゴ蛋白質(X蛋白質)の細胞内分布および機能に与える影響について検討する。(2)X蛋白質の欠損がエンドサイトーシス経路の抑制によるアドリアマイシン感受性に与える影響について検討する。
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