がんの化学療法におけるテーラーメイド医療を実現させるためには、個々の制がん剤に対する感受性を規定する遺伝子群の全容解明が不可欠である。本申請者は、真核生物モデルとして有用な出芽酵母を用いて制がん剤アドリアマイシン感受性決定に関わる遺伝子群の網羅的スクリーニングを行い、細胞内小胞輸送経路に関わる遺伝子を同定することに成功しているが、その詳細な作用機構については分かっていない。本研究では、アドリアマイシン感受性決定機構における細胞内小胞輸送経路の役割について解析を行った。細胞内小胞輸送経路とアドリアマイシン感受性との関係を詳細に検討したところ、小胞体からゴルジ体への小胞輸送経路(COPII輸送経路)の抑制がアドリアマイシン感受性を亢進させることが明らかとなった。小胞体で合成された蛋白質(カーゴ蛋白質)は特定のカーゴレセプターによって認識され、COPII小胞を介してゴルジ体に運ばれることが知られている。そこで、アドリアマイシン感受性決定に関わるカーゴレセプターを検索したところ、アドリアマイシン毒性を軽減するカーゴレセプターとしてErv14が同定された。さらに、Erv14結合蛋白質とアドリアマイシン感受性との関係を調べたところ、Golgi matrix proteinの1つを欠損させるとアドリアマイシン感受性が亢進することが明らかとなった。したがって、Erv14によって認識されCOPII小胞によって運ばれるGolgi matrix proteinがアドリアマイシン毒性の軽減において重要な役割を果たしている可能性が考えられる。また、アドリアマイシンがCOPII輸送活性を阻害することも明らかになったことから、COPII輸送経路がアドリアマイシン毒性の標的経路の1つである可能性も示唆された。
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