研究課題/領域番号 |
23790175
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
林 久允 東京大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (10451858)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | トランスポーター / 胆汁酸 / 肝内胆汁うっ滞 / 細胞内ソーティング / ユビキチン |
研究概要 |
肝毛細胆管側膜(CM)に発現するトランスポーターであるBile salt export pump(BSEP)のCMからの内在化促進は、胆汁酸の胆汁排泄の低下によって惹起される肝内胆汁うっ滞の主要因の一つである。BSEPのCMからの内在化に関わる分子機構は未解明であり、未だ肝内胆汁うっ滞に対するmechanism-basedな薬剤は開発されていない。当該年度は、肝内胆汁うっ滞に対する新規薬効標的の提唱を目的とし、BSEPの細胞膜からの内在化に関わる分子機構の解析に着手した。近年、ユビキチン(Ub)化は細胞膜タンパク質の細胞膜からの内在化シグナルとして働くことが報告されている。BSEPとUbのキメラタンパク質、Ubのドミナントネガティブ体の過剰発現細胞を用いて検討した結果、Ub化はBSEPにおいても細胞膜からの内在化シグナルとして働くことが示唆された。代表研究者はこれまでの研究から、尿素サイクル異常症治療薬である4-phenylbutyrate (4PBA)がBSEPの細胞膜からの内在化を抑制し、BSEPの細胞膜発現量を増加させることを明らかにしている。4PBAを投与したラット肝臓を用いたマイクロアレイ解析において発現変動が認められた遺伝子群に着目し、機能解析を行ったところ、クラスリン依存的内在化において、アダプタータンパク質として働く、adaptor protein complex2(AP2)がBSEPの内在化促進に働くことが明らかとなった。BSEPの細胞膜発現量は、ユビキチンとの相互作用ドメイン、AP2との相互作用ドメインを有するEps15によって、負に制御されていることが報告されていることを鑑みると、細胞膜上でユビキチン化されたBSEPは、Eps15,AP2に認識され、最終的にはクラスリン依存的な経路により、細胞膜から内在化するというモデルが考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初予定では、研究初年度にBSEPのUb化に関与する酵素群の探索に着手する予定であった。しかしながら、研究を進める中で、BSEPの細胞膜からの内在化に関与するUb化以外の因子を同定することに成功し、BSEPの細胞膜からの内在化機構に対するUb化の寄与について再考する必要が出てきた。そこで、研究初年度はBSEPのUb化に関与する酵素群の同定に先立ち、BSEPの細胞膜からの内在化の分子機構の解析に着手したため、当初予定に比して、進捗状況はやや遅れていると考える。
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今後の研究の推進方策 |
BSEPの内在化促進因子として働くUb化とAP2が、それぞれ独立した機構としてBSEPの内在化に働くのか、あるいはともにBSEPのクラスリン依存的な内在化機構の因子として働くのかについて更なる検証を加え、肝内胆汁うっ滞の創薬標的として最適な分子の同定を試みる。BSEPの細胞膜上でのUb化がBSEPの内在化において主要な役割を担うことが明らかとなった場合には、BSEPのUb化に関与する酵素群の探索に取り掛かる。まず、BSEP発現培養細胞を用い、BSEPの細胞膜発現量、胆汁酸の輸送機能の変動を指標にして、siRNA library(Ub Conjugation Subset)をscreeningする。Screeningでヒットした酵素のうち、肝臓に発現する酵素に関しては、BSEPの細胞膜上のBSEP-Ub量の制御に働くことを確認する。以上のin vitro実験から同定した酵素をアデノウイルスによるin vivo遺伝子発現法により、正常マウス及び、肝機能障害モデルマウスにおいて過剰発現、あるいはknockdownし、CM上のBSEP発現量、BSEP-Ub量とともに、胆汁流量、肝機能障害マーカーなどを測定することにより、in vivoにおける当該酵素のBSEPのUb化に対する寄与、並びにBSEPの発現量低下に起因する肝機能障害に対する創薬標的としての有用性について考察する。
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次年度の研究費の使用計画 |
主要な支出は、in vitro実験並びに動物実験にかかる消耗品費である。BSEPのUb化に関わる酵素をin vitro実験から同定するため、培養細胞において遺伝子を過剰発現、あるいはknockdownさせる必要がある。従って、遺伝子導入試薬などの一般試薬類の費用を計上している。さらに、in vitro実験より同定した遺伝子のin vivoにおける機能評価を行うため、実験動物の購入費用も計上した。また、成果発表費用として、国内・海外旅費、論文掲載費を計上した。備品は、所属研究室に備わっているもので対応可能であるため、申請を行わなかった。
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