研究課題/領域番号 |
23790178
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
中嶌 岳郎 信州大学, 医学系研究科, 助教 (30581011)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 脂質代謝 / 分子薬理学 / 臨床用量 |
研究概要 |
フィブラート薬物はPPARαを活性化させて中性脂肪量を減少させると考えられている。しかし、この薬理機構を支持するげっ歯類試験データは、臨床用量と乖離した高用量の投薬試験に由来している。本研究では、マウスへ臨床用量相当のフィブラート薬物を投与し、その薬効発現とPPARα活性化の関連を明確にすることを目的とした。 本年度は、4種のフィブラート薬物について、低用量でマウス肝臓PPARαを活性化しないことを確定し、新たな薬効寄与分子を特定した。また、副作用・安全性に関する重要な情報が得られた。以下に、具体的な研究成果を記載した。 13.5%飽和脂肪食で十週間継続飼育した雄マウスは、体重増加、精巣周囲脂肪組織・腎周囲脂肪組織の重量増加、及び、肝臓への中性脂肪・遊離脂肪酸の著しい蓄積を示した。このマウスを同飼料で継続飼育し、フェノフィブラート・クロフィブラート・ゲムフィブロジル・ベザフィブラートを各々低用量で二週間経口投与した結果、全ての処方について、肝臓に蓄積した中性脂肪・遊離脂肪酸の低減作用が認められた。肝臓PPARαの活性化は全く生じていなかった。低用量フィブラートによる脂肪肝軽減作用には、fatty acid translocase発現低下に伴う肝細胞への血中脂肪酸の取込抑制、並びに、lipin1蛋白の発現低下に起因するジアシルグリセロール・トリアシルグリセロール合成抑制が関与していた。一方、同薬物を高用量(低用量の10倍量)で投与されたマウスでは、脂肪肝は改善したが肝臓過酸化物含量は増加した。この現象は、PPARα活性化により脂肪燃焼が激的に亢進し、酸化ストレスが急速に高まったことに起因していた。低用量投与下では肝臓酸化ストレスの上昇は認められず、薬物は脂肪肝状態の緩和に効果的に作用したと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
採択一年目の本年度は、日常診療での使用頻度が高い4種のフィブラート薬物の解析に注力した。当初計画した新規作用標的の探索と酸化ストレスの状態評価を実施し、既述した重要な結果が得られた。また本年度は、今後の解析に必要となる実験手技の確立を行えた。具体的に、少量の凍結組織から細胞核を高純度・高収率で分画する技術を開発した。これにより、核内蛋白に焦点を当てたプロテオーム解析の準備が整った。また、高分離能薄層クロマトグラフィーを用いた単純脂質分析実験の実施条件を決定し、薬理機序の解析に活用した。以上から、本年度実施した研究は申請課題の達成に大きく貢献するものであり、概ね順調に研究が進展したと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度見出した標的分子の発現調節機構を明らかにするため、核内蛋白あるいは細胞内シグナル伝達因子に着目したイムノブロット・免疫沈降・二次元電気泳動解析を行う。また、新たな作用標的を探索し、その分子機構を同様に調査する。加えて、低用量フィブラートの薬理作用に関する新しい情報を得る試みとして、薄層クロマトグラフィー法を用いた複合脂質分析実験を行う。分子機構の裏付けが得られた後、論文作成に取り組む予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
主に、研究消耗品費として使用することを予定している。具体的には、脂質分析に必要な高分離能薄層シリカゲルプレート・脂質標品など、蛋白実験用の抗体・二次元電気泳動試薬など、RNA実験で使用するSYBR試薬・プライマーなどの購入を予定している。高額機器の購入は予定していない。また、当初計画では、学会発表・論文執筆を本年度実施予定であったが、研究の進捗状況により、次年度に実施することになったため、次年度使用額が生じた。
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