研究課題/領域番号 |
23790178
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
中嶌 岳郎 信州大学, 医学系研究科, 助教 (30581011)
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キーワード | 脂質代謝 / 分子薬理学 / 臨床用量 |
研究概要 |
本研究では、フィブラート薬物を臨床用量相当でマウスに投与し、薬理作用とPPARα活性化の関連性を検証することを目的としている。昨年度までの解析から、フェノフィブラート・クロフィブラート・ゲムフィブロジル・ベザフィブラートの4種のフィブラート薬物について、低用量投与ではマウス肝臓PPARαを活性化しないことを確定した。これらの薬物は全て、高飽和脂肪食により脂肪肝状態を作製したマウスに対して脂肪肝軽減作用を示した。低用量投与群では、脂肪酸トランスポーター(FAT/CD36)やジアシルグリセロール合成酵素(Lpin1)の発現低下が確認され、薬理作用への関与が示唆された。 本年度は昨年度の成果を発展させる試みとして、薄層クロマトグラフィー法を用いた肝臓脂質の定性分析を行った。低用量投与群では、肝臓内トリアシルグリセロール及びジアシルグリセロール蓄積量が共に著減しており、Lpin1蛋白量の減少とよく一致した。また、Lpin1はリン脂質合成の重要な中間体であるホスファチジン酸を基質とするため、肝臓内リン脂質含量への影響を同様に調べた。その結果、低用量投与群において、コリン結合型リン脂質など幾つかの生体膜構成リン脂質の増加を検出した。このことから、低用量フィブラートはグリセロ脂質合成において、Lpin1を起点に中性脂肪からリン脂質へ合成配分を変更することで、肝臓への脂肪蓄積を抑制した可能性が考えられた。また、脂質代謝関連分子の発現変動解析を昨年度より検索範囲を広げて行い、新たな薬理作用として脂肪酸取込・運搬に働くL-FABPの発現低下を見出した。昨年度の結果と併せて、低用量フィブラートは肝細胞内への脂肪酸取込抑制に強く作用することが推測された。 本年度までの解析から、記述した4種のフィブラート薬物の新規薬理機序に関する一通りの裏付けが行えた。現在、論文作成の準備を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
採択二年目の本年度は、昨年度までに得られた成果を発展させ、成果発表を行える段階に至ることを目標とした。具体的には、既述した4種のフィブラート薬物の新規薬理機序の解析を進めた。これら4種の薬物は、当該薬品類の中でも日常診療での使用頻度が非常に高いため、これらに関する新規薬理機序の提案は、関連領域に与えるインパクトが大きいと予想した。本年度は、当初計画した薄層クロマトグラフィー法による脂質定性分析と新規作用標的の探索を重点的に行った。特に、薄層クロマトグラフィー解析では、本実験に先立ち、各脂質の分離条件の検討と、最適な脂質抽出・精製条件の調整を行う必要があり、本解析までに時間を要することとなったが、既述した重要な結果を得ることができた。また、本年度は大学研究施設の耐震改修工事と重なり、研究活動を十分に実施するための実験スペースや時間を確保できない状況にあった。しかし、研究の優先順位を決定し、論文としてまとめるために必要な解析を優先的に進めたことで、論文作成に必要な一通りの実験データを揃えることができた。従って、概ね順調に研究が進展したと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
第一に、分子機構の裏付けを終えた処方を論文としてまとめ、成果報告する。また、分子機構の裏付けが不十分な処方に関して必要な実験を行い、十分なデータを収集した後、論文としてまとめて成果報告を行う。さらに、薄層クロマトグラフィー法を用いた脂質定性分析をより発展させる試みとして、液体クロマトグラフィー/質量分析装置を用いた脂肪酸組成解析を行う。具体的には、まず、マウス飼料中の脂肪酸組成を調べ、実験条件を確定する。良好な結果が得られたならば、マウス生体試料中の脂質成分の脂肪酸組成解析に進む。これにより、本年度得られた研究成果をサポートする有用な情報が得られると考えている。分子機構の裏付けが得られた後、論文作成に取り組む予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
主に、研究消耗品費として使用することを予定している。具体的には、脂質分析を液体クロマトグラフィーで行うための分析カラム・溶媒・脂肪酸標準品、蛋白実験用の抗体・蛋白定量試薬・二次元電気泳動試薬など、RNA実験で使用するSYBR試薬・プライマーなどの購入を予定している。高額機器の購入は予定していない。また、本年度は当初計画で見込んだよりも安価に研究が進行したため、次年度使用額が生じた。
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