研究課題
BCRP (ABCG2) は,種々の細胞において,内因性および外因性有害物質の排泄を担うABC transporterであり,その適切な発現制御は,生体の恒常性維持の観点から重要である.これまで,BCRPは,小胞体内でN型糖鎖修飾を受け,ホモダイマーを形成し,形質膜上で機能することは明らかであったが,これらのステップを制御する分子は不明である.そこで,本研究では,まず第1に,小胞体の品質管理関連分子のscreeningの結果得られたDerlin-1によるBCRPの翻訳後発現制御機構の解明を行った.その結果,Derlin-1の過剰発現は,野生型BCRPとの相互作用を介して,野生型BCRPの小胞体からゴルジ体への輸送経路を抑制することが明らかになった.一方,Derlin-1は,N596Q BCRPに対しては,その小胞体関連分解を促進し,BCRPタンパク質の安定性を低下させることが明らかになった.また,Derlin-1のknockdown は,tunicamycinにより生じた脱N型糖鎖型の野生型BCRPの分解も抑制したことから,Derlin-1は,脱N型糖鎖型のBCRPを分解させる因子であることが明らかになった.一方,ステロールトランスポーターである ABCG5およびABCG8の変異または機能低下は,遺伝性疾患シトステロール血症の誘発及び動脈硬化の発症に関与する.そこで,本研究では,第2に,ABCG5/ABCG8に着目し,HRD1による制御機構の分子基盤を明らかにすることを主目的とし,種々の検討を行った.その結果,HRD1は,ABCG5/8の発現制御に影響を与える因子であることがあきらかになり,特に,ABCG8に対しては,その糖鎖付加状態に影響を与える因子であることが明らかになり,HRD1によるABCG5/8のユニークな発現制御機構が存在することが明らかになった.
2: おおむね順調に進展している
当初の予定では,下記の4項目を実施する予定であった.(1)Derlin1やHRD1の過剰発現またはノックダウンによる正常型BCRPまたはABCG5/ABCG8の変化に関する検討,(2)BCRPまたはABCG5/ABCG8の糖鎖修飾部位の同定およびその変異タンパク質安定性に関する検討,(3)Derlin1やHRD1の協調因子の探索,および,(4)変異型BCRPまたはABCG5/ABCG8の翻訳後発現調節におけるDerlin1やHRD1の影響の検討BCRPの研究に関しては,強調因子こそは見つからなかったが,Derlin-1の正常型・変異型BCRPに対する作用機序を明らかにすることができ,Derlin-1のBCRPに対するNegative regulatorとしての役割を明確に出来た(Sugiyama T, et al., Biochem Biophys Res Commun. 2011 Jan 21;404(3):853-8).一方,ABCG5/8に関しても,上記(1)-(2)は概ね明らかに出来ており,HRD-1がABCG5およびABCG8に対するNegative regulatorとして機能することが明らかに出来ており,今年度の検討により論文投稿する予定である.
【現在までの達成度】において述べたように,ABCG5/8に対するHRD-1の作用についての詳細が未だ明らかでないことから,本年度は,Derlin1やHRD1の協調因子の探索,および,変異型ABCG5/ABCG8の翻訳後発現調節におけるHRD1の影響の検討を中心に検討していきたい.また,HRD1と同様に,E3リガーゼの一種であるRMA1もABCG5/8に対して発現制御を担う分子であることが明らかになってきたから,この間点に関しても,本年度に実施することで,論文にまとめていきたい.なお,本年度は,この1年間で明らかにしてきた現象のin vivoにおける生理的意義を明らかにする目的で,病態モデルにおけるDerlin1やHRD1の発現とBCRP,ABCG5/ABCG8の発現相関解析等を実施できるとよい.
上記の【今後の研究の推進方策】に則り,Derlin1やHRD1の協調因子を探索することや,変異型ABCG5/ABCG8の翻訳後発現調節におけるHRD1やRMA1のはたらきについての詳細をin vitroで明らかにし,病態モデルにおけるDerlin1やHRD1の発現とBCRP,ABCG5/ABCG8の発現相関解析をin vivoで実施する.そのため,実験のほとんどは,細胞培養系を用いた遺伝子導入実験,Western blotting,免疫蛍光染色法,免疫沈降法である.昨年度と同様な消耗品・試薬等の使用用途となる.一方,本年度は,動物実験を行うため,その購入および繁殖維持に費用を要する.また,本研究領域は,非常に進展が早いため,その情報収集を目的として,アメリカ細胞生物学会に参加することで,研究の動向をさぐる.また,ABCトランスポーターに関する研究であることから,トランスポーター研究会にて,各年度の研究内容を発表する予定である.論文投稿も実施する.
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